なぜ所有不動産の確認からスタートするのか?

自己診断の質問1である、所在地の把握について、なぜここから始めるのか?
それは、手間を最小限にするためです。
祖父からの相続で不動産登記を自分で行なった時の話です。
不動産を相続したときに、これまで登記は義務とされていませんでした。しかし、2024年4月から相続登記は義務となり、施行前の1年ほどでこれまで相続登記をしてこなかった人たちはどんどん登記手続きをするようになりました。私の父もその一人で、相続登記の義務化は知っていたのですが、未着手でした。そこで不動産エージェントである娘の私が登記のサポートをすることにしたのです。
相続登記には、被相続人の資料や相続人の書類などを集める必要がありますが、相続する不動産の情報を明記しなければならないため、不動産の情報を正確に把握し、申請しなければなりません。売却査定の不動産調査までは要らないものの、状況を明らかにするためには手間がかかりました。
とりあえず登記簿謄本、は間違いだった
対象の不動産は2つあり、まずは登記簿謄本を取得しました。
Aは叔父が相続する祖父自宅(祖母が居住中)、Bは父が相続する不動産(現在父が事務所として利用中)
住所から地番を調べ、登記簿謄本を取得しました。
これが最大の失敗です。
自己診断の調べ方にある通り、所有する不動産の所在地をすべて確認するには
- 権利書や登記識別情報通知、登記簿謄本等の資料確認
- 課税明細書の確認
- 名寄帳の確認
この順番で行います。
1の権利書(祖父の自宅はかなり古いため登記識別情報通知はない)はないと聞いていました。正確には存在するかどうかも父と叔父は知らない、ということです。祖母は存命ですが、90歳を超えているかつ、家のことなどはお父さん(祖父)に任せていた、ということです。女性が不動産関連(権利関係や契約など)はよく知らない、よくあるケースです。
2の課税証明書の確認が2つのうち1つしかできませんでした。Bは課税証明書の評価額なども記載されている冊子ごとあったのですが、もう1つのAは、納税後の領収書のみ叔父が手元に残していました。なのでAは「固定資産税が課税された不動産」を特定することができませんでした。

課税明細書の見方 堺市のホームページより
https://www.city.sakai.lg.jp/kurashi/zei/shizei/koteishi/kazeishomeisho.files/2024kazeimeisai.pdf
※自治体によって表記内容・表現が違う場合があります。
登記簿謄本の取得でも難航した
登記簿謄本自体には、その対象不動産に関連する情報しか掲載されません。そのため、登記簿謄本だけでは祖父が所有する不動産をすべて把握することはできません。
この課税明細書の確認を最初に行わなかったことが手間を倍増させました。
課税明細書を確認しないまま、すなわち私は「所有する不動産の所在地をすべて把握して」いない状態で登記の準備を始めてしまったのです。
Aは今年度の課税明細書が見当たらなかったため、探してもらうように叔父に依頼していましたが、なかなか見つからない状態でした。見つからなければ役所に行って「固定資産税評価証明書」を取得してきてほしいと、早めに言えばよかった、と反省です。
Aの物件は登記簿謄本を取得する時に、土地はすぐに取得ができたのですが、建物の登記簿謄本の取得がすんなりとできませんでした。
土地は住所とは違う所在地(法務局が管理している番号・地番)があり、その地番で取得ができます。建物は家屋番号が地番とは別に付与されており、その家屋番号で謄本を取得します。多くの場合、土地の所在地に紐づいて家屋番号も付与されているのですが、Aの不動産は、土地の地番とは全く違う所在に存在していました。
昔の不動産なので、土地が合筆(合体)されたり分筆(分離)されたりいろいろあって地番も変わることがあります。その土地の変化に合わせて建物も自動的に変わればいいのですが、土地は土地、建物は建物、とそれぞれ分かれているため、バラバラになることもあるようです。
Aの不動産も、土地の地番が変わって、建物は変えていなかったのだろう、と思っていました。問い合わせをした法務局の担当の方もそのようにおっしゃっており、今後の相続などを考えれば合わせて(土地と建物の所在地を一緒に)しておいた方がいいと思うよ、とアドバイスもいただきました。
ところが、登記の最終段階、書類捺印の段階で大きく事態は変わります。
建物の所在地が全然違う番号というわけではなかった
書類捺印には実印が必要ですから、関係者全員が集まって捺印を行うことにしました。その際、叔父には役所で「固定資産税評価証明書」を役所で取ってきてもらうように依頼をしていました。
取得してきてもらった「固定資産税評価証明書」を確認すると、Aの不動産は土地1つ建物1つだと思っていたら、土地2つに建物1つでした。証明書に記載されている土地の地番を確認すると、Aの建物の前の道路の地番でした。建物の所在・家屋番号もこの土地の所在地でした。
道路だと思っていた家の前の道は、私有地だったのです。

そう言えば、父が「前の道路の一部は持っているんだから、車を止めても文句言われない」、と言っていたのです。私はてっきり家の土地が少し道路っぽくなっているだけだろう、と思っていたので、父の発言は重要視していなかったのです。これも反省です。
まとめ
この「固定資産税評価証明書」が祖父の所有するA物件のすべてになるため、作成していた書類はすべて間違い、すべて作り直しをせざるを得ませんでした。
今まで作ってきた書類をすべて作り直し、再度捺印のために集まる、ということをしなければならなくなった=同じことを2回することに=手間が倍になった、ということです。
このような手間をかけないためにも、まずは「所有する不動産の所在地を全て把握して」から、不動産の調査や相続関連作業などは進めてくださいね。
この記事を書いた不動産エージェント

福祉宅建士 久保 有美
宅建士と社会福祉士の両方の知識を活かして活動をしています。
2023年に祖父が亡くなり、親族への相続登記をサポートしました。
その際に見た不動産の情報は親族も知らない情報がたくさんあり、70代の父や叔父だけでは正しい情報をまとめることが困難だった為サポートに入りました。
相続も実家じまいも正しい不動産の情報・状況をまとめることが、次なる相続の対策になると感じています。