2025年の省エネ基準適合の義務化について

高断熱の家づくりを目指すのは、省エネで快適、かつ健康的な住まいにするためというのが一番の大きな理由です。
しかし同時にそれは、社会がこれから進んでいく流れに沿った家づくりでもあるのです。
そのことを端的に表しているのが、2025年の省エネ基準適合の義務化です。
「はじめに」の部分でも簡単に取り上げましたが、その点をさらに詳しく見ていきましょう。
省エネ基準適合の義務化とは
建築物を建てる時には、「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律」(建築物省エネ法)に基づいて定められた「建築物エネルギー消費性能基準」を満たさなければなりません。
これを、「建物の省エネ基準」と言います。
建築物省エネ法が初めて制定されたのは、1980年(昭和55年)。以降、時代の流れに合わせて改正が繰り返され、2013年(平成25年)には外壁や窓などの「断熱性能」と「一次エネルギー消費量」が新たに満たすべき基準として加えられました。
そして2025年以降、全ての新築物件に関してこの省エネ基準を満たすことが求められるようになります。これが、省エネ基準適合の義務化と呼ばれているものです。
家を建てる時にそんな法律があったのか、と驚く人も多いかもしれません。
それもそのはず。
この建築物の省エネ基準は、これまで300㎡未満の住宅や非住宅は除外対象となっていました。つまり一般住宅を建てる場合には関係のない話だったんですね。
それが2021年からは300㎡未満の小規模の住宅に対しても省エネ性能について説明することが必要になり、さらに2025年からは全ての建築物に関して省エネ基準への適合が義務化されることになります。
つまり、2025年以降は断熱性能が高く、一次エネルギー消費量が少ないエコな家しか建てることができないということなのです。
建築物省エネ法改正の背景
今回、建築物省エネ法が改正されるのは言うまでもなく、よりエコな社会を実現させるためのものです。
2020年に当時の菅首相が、2050年までに地球温暖化の原因となる温室効果ガスの排出を実質0とする、カーボンニュートラルを目指すことを表明しました。
日本においてカーボンニュートラルを実現させるには、建築物の高断熱化・省エネ化が必須。
というのも、実は日本の住宅は省エネ性能で見ると先進諸国の中ではダントツに低く、韓国や中国などの近隣諸国と比べても劣っているのが実情なのです。
政府は遅くとも2030年までに全ての新築住宅を年間の一次エネルギー消費量の収支を0にする「ZEH(ゼッチ)基準」にするとしていますが、それに先立ち、2025年以降は全ての新築住宅が省エネ基準を満たさなければならなくなります。

後でさらに詳しく触れますが、法改正によって全ての新築住宅が満たすべき断熱等級4相当というのは、実はそこまで高いレベルではありません。というのも、この断熱等級4という基準が制定されたのは1999年(平成11年)。つまり、25年も前のものなのです。
2022年4月には断熱等級4を上回る断熱等級5が、そして同年10月には断熱等級6と断熱等級7が新設されました。
そのため、2025年に省エネ基準の適合が義務化されるとは言っても、それはあくまでも最低限度の基準であるという点に留意しておくことが大切です。
断熱等級について
省エネ基準に適合させるには、断熱性能等級4以上を達成しなければなりません。
この断熱等級についても「はじめに」で説明しましたが、改めて振り返っておきましょう。
断熱等級
・断熱等級1:1980年制定 省エネ基準未満。つまり断熱性能がほとんど無いということ
・断熱等級2:1980年制定 省エネ基準相当。断熱・省エネ性能は限りなく低い
・断熱等級3:1992年制定 省エネ基準相当。当時の基準で省エネな家ということ
・断熱等級4:1999年制定 省エネ基準相当。2025年以降はこれが最低基準となる
・断熱等級5:2022年制定 ZEH基準相当
・断熱等級6:2022年新設「HEAT20」G2レベル相当
・断熱等級7:「HEAT20」G3レベル相当。現時点での最高レベルの断熱性能となる
これからも明らかなように、2025年以降に義務化される断熱等級4は、あくまでも現時点で求められる最低限度の断熱性能ということになります。
断熱等級4の家では、「冬の室内の最低体感温度が8℃を下回らない程度」とされています。ただこれだと、思ったよりも寒いですよね?
実際に私の感覚でも断熱等級4の家は廊下などに出ると寒く、浴室には暖房機がないとヒートショックの心配があるというのが実際のところです。
断熱等級5は、ZEH基準相当となっています。
ZEHは、”net Zero Energy House”の略。つまり、「エネルギー収支をゼロ以下にする家」という意味。
上でも述べたように、ZEH基準で見ているのは断熱性能というよりも、一次エネルギー消費量となります。ZEH基準の家では高断熱化によって暖房器具の使用を抑えると同時に、太陽光発電などによって一次エネルギーの年間消費量をおおむね0に抑えることを目指しているからです。
もちろん、高断熱の家であることが前提ではありますが。

ここで大切なのは、私たちが使っている電気(二次エネルギー)を生み出すためには、それ以上の化石燃料(一次エネルギー)を消費するということです。
というのも、石油や石炭は100%そのまま電気になるわけではなく、発電や送電時にどうしてもロスが生じるからです。
例えば、1kWの電気を家で使うためには、だいたい2.7kW分の化石燃料を燃やさなければならないとされています。
つまり電気料金が上がるということは家計にとっても厳しいですが、それと同時に国の負担も大きくなってしまうということを意味しています。何しろ化石燃料のほとんどを輸入に頼っているわけですから。
高断熱でエコな家にすることによって電気の消費量(電気料金)を抑えられるということは、それだけ国全体のコストを下げることにもつながる、という点は覚えておいてほしいところですね。
貿易赤字やCO2排出量に直結するのは一次エネルギー量であるため、国はZEH基準などでも一次エネルギー量を用いているわけですが、私たちにとって分かりやすいのは二次エネルギー量の方ですよね。何しろ、毎月支払っている金額を確認しているわけですから。
国もエネルギー政策を進めたいのなら、もっと一般国民にも分かりやすい数字を使えば良いのに、と私は思います。
ZEH基準がエネルギー消費量を軸に考えているのに対し、2022年に新設された断熱等級6と断熱等級7では「HEAT20」という新たな物差しが取り入れられています。
HEAT20とは「一般社団法人 20年先を見据えた日本の高断熱住宅研究会」の略で、より快適に暮らすための断熱性能の基準をG1〜G3の3グレードで評価しています。つまり、より断熱性能に目を向けた基準というわけですね。
断熱等級6はHEAT20のG2相当。これは、主に東北以北の地域で冬でも室温がおおむね15℃、それ以外の地域でも13℃を下回らない程度とされています。
HEAT20のG3相当となる断熱等級7では、冬の室温が15〜16℃を下回らないとされていますから、ある程度の服装であれば冬でも暖房が必要ない家ということになりますね。
2025年省エネ基準適合の義務化に関して、どんな考え方をしたら良いのか?
2025年に施工される省エネ基準適合の義務化と、その基準となる断熱等級については理解できたと思います。
ではそれを踏まえて、私たちは家の断熱に対してどんな考え方をしたら良いのでしょうか?
2025年の省エネ基準適合義務化の対象となるのは新築住宅に関してですから、ここではリフォーム住宅については考えないものとします(リフォームは別に改めますね)。
国の指針では断熱等級4を基準にしていますが、これは最低限度のもので、可能であればもっと上のレベルの家づくりを目指すべきです。
その理由が、以下の2つ。
1.高断熱の家は、快適で健康的。かつ地球にも優しい家になる
2.高断熱の家は、資産価値が高まる
1.については、改めて詳しく述べる必要もないでしょう。
特に断熱等級6以上の家になると冬でも家の中は快適で、ヒートショックなどの心配も少なくなります。エネルギー消費量を抑えられる分、地球温暖化防止にも効果的な家となるわけです。
2.についてはどうでしょうか?
家の断熱性能を高めるということは、社会的な流れでもあると説明しました。
逆に言うと断熱性能の低い家は、流行に逆らった家ということになります。
個人的な好みは別として、そうした家は資産価値も低くなってしまうというのも当然のこと。
2025年から新築の家は全て断熱等級4を満たさなければならなくなります。一般消費者の断熱性能への意識も高まるでしょうから、断熱等級が高い家ほど、資産価値が高くなると容易に想像できます。
現に一条工務店では、断熱性能7を実現した「断熱王」という商品(家)を販売しています。
断熱性能7も、特別なものでは無くなりつつあるのです。’
その家に一生住むというのであれば、資産価値についてはあまり考える必要はないかもしれません。
しかし将来的に家を売却する可能性が少しでもあるのなら、資産価値を高める家づくりという観点は非常に大切。特に今は、不動産価格の高騰が続いていますから。
【2025年の省エネ基準適合の義務化に関しての基本的な考え方】
断熱等級4で良しとせず、もっと上の断熱レベルを実現させる
このことは、ぜひ覚えておいてください。
2025年省エネ基準適合の義務化に関して、どんな選択をしたら良いのか?
とはいえ、家を建てる時には予算的な問題が常につきまといます。
高断熱の家が住みやすくて資産価値が高くなるとはいっても、予算が合わなければどうしようもありません。
そのため、取るべき選択は以下の2つ。
1.予算の範囲内で、可能な限り断熱性能を高める
2.予算が厳しいのなら、他に妥協できる点がないかを探る
まずは、予算の範囲内で可能な限り断熱性能を高めることを決意しましょう。
そうしないと、あれもしたい、これも実現したいと、他に叶えたい部分に目が移ってしまうからです。
家の断熱性能というのは目に見えない部分であるからこそ、自分の中での優先順位をハッキリとさせておいてください。
その上でもし予算が厳しいのであれば、他に妥協できる点がないかを探りましょう。
例えば、キッチンやお風呂などのグレードを少し落とせないでしょうか?
家の設備は後で変更することも可能なので、まずは断熱にお金をかけるという考え方もあるのです。
あるいは、間取りやデザインをもっとシンプルにするという方法もあります。
凝ったデザインは確かに注文住宅の醍醐味ですが、自分にとって魅力的なデザインが他の人にとってもそうとは限りません。むしろ、凝りすぎたデザインは売却の際の足かせともなりかねません。
逆に間取りやデザインをシンプルにすれば全体のコストを抑えられるだけでなく、家の資産価値を高められるという側面もあるのです。車を売却する時に社外品よりも、純正オプションを装着した車の方が高く売れるのと同じ理屈です。
ただ、家づくりの時にどこが妥協できるかを判断するのは非常に難しい。
自分の思いや夢が、そこにはたっぷり詰まっているはずだから。
だからこそ、冷静にアドバイスできる第三者の助け、プロの助言を仰ぐことが望ましいのです。
まとめ
2025年の省エネ基準適合の義務化によって、これまで以上に家の断熱に対する人々の意識も変わってくるでしょう。
高断熱の家は特別なものではなく、当たり前になっていく。
それは住心地の良さという目の前の生活のことを考えても、そして地球温暖化防止という大きな視点で考えても重要なことです。
だからこそ、家づくりにおいては最低限の断熱等級4で良しとせず、断熱等級6や断熱等級7レベルの家にすることを考えてほしいのです。
もしも仮に100万円余分に予算をかけて断熱性能が上がるなら、そこにお金をかける価値は絶対にあります。
でも予算がギリギリであれば、プロの助けを借りながらどこを妥協できるかを探ってください。
高断熱の家は間違いなく、これからのスタンダードとなります。
だからこそ、判断や決定を誤らないようにしてほしいのです。
この記事を監修した人

スタイルオブ東京株式会社
代表取締役 藤木 賀子
宅建士、公認不動産コンサルティングマスター(アンバサダー)
不動産コンサルティング、売買仲介、住宅建築プロデューサーとして2000件以上の相談を受ける。
お客様にとっての『毎日を楽しく暮らすお手伝い』を実現するために、正しい知識を提供すること、お客様と住宅業界・不動産業界のコミュニケーションギャップを無くすことに使命をもって奮闘中。