高断熱住宅が健康的な家と言える理由
当コラムでは、高断熱の家づくりを「快適で健康的な家づくり」と紹介しています。
しかしこれは別に煽っているわけでも単なるキャッチコピーでもなく、事実をそのまま伝えているに過ぎません。
高断熱住宅が健康的であるというのも、ちゃんと根拠のある話です。
たとえば、WHO(世界保健機関)は寒さによる健康被害を避けるため、室内の温度を18℃以上にするよう提案しています。(住まいと健康に関するガイドライン 2018年11月)
高断熱住宅に住むと風邪をひきにくくなる、という話は聞いたことがあるかもしれません。しかしそれ以上に、私たちの健康にとって大きな影響を及ぼすのです。
ではどうして高断熱住宅は健康的と言えるのか?
その理由を、詳しく見ていきましょう。
高断熱住宅は高血圧のリスクを下げる
オムロンヘルスケア株式会社と慶應義塾大学理工学部、自治医科大学 循環器内科学部門などが共同で行った研究によると、断熱性能が低い住宅の居住者(50歳以上)の平均血圧が128.8mmHgであったのに対し、高断熱の家では平均血圧が121.0mmHgと低かったことが報告されています。(参照:https://www.healthcare.omron.co.jp/corp/news/2015/0421.html)
また別の調査でも室温が10℃低くなると血圧が平均4.3mmHg高くなると報告されており、室温と血圧の関連性が明らかになっています。
寒くなると体温を逃さないように血管が収縮することは、医学的にも証明されています。
血管が収縮すると血圧は自然と高くなってしまうので、やはり寒さと血圧は関係しているんですね。
高血圧は様々な病気の要因とされていますから、普段から気をつけている人も多いと思います。
しかし高血圧の予防というと、塩分の取り過ぎを避けることや適度な運動を行うといったことに気をつける人は多くても、部屋の暖かさに目を向ける人はどれほどいるでしょうか?
高齢になるほど室温から受ける血圧の影響も大きくなることが知られていますから、若いうちから断熱性の高い家に住むことは健康にも役立つのです。
高断熱住宅はアレルギー性疾患を抑える
高断熱住宅は多くの人が苦しんでいる花粉症、そしてアトピー皮膚炎や気管支喘息などのアレルギー性疾患を抑えるのにも有効なようです。
「健康維持がもたらす間接的便益(NEB)を考慮した住宅断熱の投資評価」では、断熱性能の低い家から高断熱住宅に引っ越した全国10,000人を対象にしたアンケートの結果が公表されています。(参照:https://www.jstage.jst.go.jp/article/aije/76/666/76_666_735/_pdf)
それによると、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、気管支喘息、アトピー性皮膚炎などのいずれのアレルギー性疾患においても症状が改善されたとのこと。
これはあくまでもアンケート調査であり、医学的な臨床試験の結果ではないことに留意すべきです。
とはいえ、アンケートに答えた人の数、そしてどの年代からも有意な結果が見られたというのは注目すべき点ではないでしょうか。
この結果は家の断熱性能というよりも、気密性の高さがもたらしたものと考えられます。
高気密の家では外気が入りにくく、しっかりとした換気システムも備えているため、アレルギーの原因となるほこりや花粉なども室内に入りにくくなるからです。
花粉の時期などは空気清浄機などを利用している人も多いと思いますが、高気密の家ではもともと室内の空気がきれいに保たれる。その結果、アレルギー性疾患も抑えられるというのは容易にイメージできると思います。
高断熱と高気密はセットですから、アレルギー性疾患に苦しんでいる人は高断熱の家に住むことをお勧めしたいです。
高断熱住宅は熱中症予防にも効果的
意外に思われるかもしれませんが、高断熱の家は熱中症予防にも効果的です。
というのも東京消防庁の報告によると、熱中症が発生する場所の割合いで一番多いのが「住宅等居住場所」となっているからです。
家の中で熱中症になる割合が全体の41%を占めているというのは驚きですが、そういえば高齢者を中心に家の中で熱中症になったというニュースを耳にすることも増えてきたように感じます。
実際に年齢の割合で見てみても、熱中症で緊急搬送された人の71%が65歳以上の高齢者となっています。家にいる時間が長い分、熱中症の危険性もそれだけ高いということでしょう。
高断熱の家は冬に暖かいだけではなく、夏でも涼しい室内環境を作り上げます。
夏の猛暑が年々ひどくなっていますから、できる限り涼しい環境で生活することは特に高齢者の熱中症予防にとても効果的なのです。
もともと部屋の中が涼しければ、冷房をかける必要もなくなるわけですからね。
高断熱住宅はヒートショックから命を守る
厚労省の人口動態統計(2022年)によると日本人の死因で一番多いのがガンで、全体の24.6%を占めています。
それに続くのが、心疾患(14.8%)と老衰(11.4%)、そして脳血管疾患(6.9%)となっています。(参照:https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai22/dl/gaikyouR4.pdf)
このうち、家の中の寒さが原因で心疾患や脳血管疾患を引き起こすのを、一般的にヒートショックと呼んでいます。
そして年間では毎年1万9000人ほどの人が、ヒートショックで亡くなると推定されているのです。
2023年の交通事故死者数が2,678人ですから、どれほど多くの人がヒートショックで命を落としているかが分かるのではないでしょうか。
しかも1万9000人というのはあくまで推定であって、実際にはより多くの人がヒートショックで亡くなっているのではないかと警鐘を鳴らしている専門家もおられます。
ヒートショックは暖房の効いた部屋から、トイレやお風呂などの寒い場所に移動したときの温度差によって引き起こされます。
つまり特定の部屋を暖房器具で暖めるというよりも、家の断熱性能を高めて家全体を暖かくすることのほうが重要なのです。
高断熱住宅にすると部屋ごとの温度差が小さくなるため、ヒートショックを未然に防止することが可能です。
ヒートショックは文字通り命に関わりますから、これから家を建てる方、家を買う方は高断熱住宅をぜひ選択なさってください。
高断熱住宅に対する基本的な考え方
冷えは万病の元と良く言われますが、個人的にも寒くなってくると体の調子が悪くなると実感されている人も少なくないのではないでしょうか。
実際にヒートショックが原因で、交通事故死者数の6倍以上の人が毎年亡くなっているという現実を知ると、断熱性能の低い家に住むことの危険性に気がつかされます。
高断熱住宅に住むことは何も特別なことや贅沢なことでもなく、私たちの健康を保つために大切なのです。
そのため健康面から見た時に、高断熱住宅に関しては次のように考えるべきだと思います。
【健康面から見た高断熱住宅への基本的な考え方】
健康的な生活を営むために、家の高断熱化は絶対に達成しなければならない基本的な条件である
欧米では健康的な側面から家の断熱化を高めることは、ごく当然のことであると認識されています。
例えばイギリスでは冬に室温が19℃以下になる家は健康リスクが高まる、そして16℃以下になると深刻的な健康リスクが生じると考えられています。
ドイツでも、室温19℃以下の家は基本的人権を損なうものだとみなされているそうです。
高断熱住宅に対する日本と諸外国との考え方の違いに、愕然とするのは私だけでしょうか?
冒頭でもWHOが寒さによる健康被害を避けるために室度を18℃以上にするよう推奨している点に触れましたが、日本でこの基準を満たしている家は1割に過ぎません。日本が断熱後進国と言われている所以です。
家の断熱性能を高めることは、決して贅沢な話ではありません。
むしろ高断熱住宅は、健康的な生活を送るために必要不可欠なのです。
まとめ
高断熱住宅に住むと風邪を引きくくなることはもちろんのこと、高血圧やアレルギー性疾患に熱中症、そして何よりヒートショックを予防するのにとても効果的です。
多少の予算を割り振ってでも家の断熱化を高めることは、とても意味のあることなのです。
むしろ病気になってしまった後の医療費や経済的損失を考えると、光熱費の削減を無視したとしても、高断熱住宅は経済的であると言えるのではないでしょうか。
家の断熱性能を高めることは、快適で健康的な生活を送るために最も基本的な条件です。
日本でも少しずつ家の断熱性能への考え方が変わってきていますが、高断熱住宅に住むことが普通で当たり前の社会になることを願っています。
この記事を監修した人
スタイルオブ東京株式会社
代表取締役 藤木 賀子
宅建士、公認不動産コンサルティングマスター(アンバサダー)
不動産コンサルティング、売買仲介、住宅建築プロデューサーとして2000件以上の相談を受ける。
お客様にとっての『毎日を楽しく暮らすお手伝い』を実現するために、正しい知識を提供すること、お客様と住宅業界・不動産業界のコミュニケーションギャップを無くすことに使命をもって奮闘中。