屋根について考える

家の断熱性能について考える時に、一般の人が真っ先に思いつくのは断熱材ではないでしょうか?

ただ、「断熱材=壁」とイメージしている人がほとんどで、屋根の断熱材・断熱性能について気にしている人は少数派ではないでしょうか。

しかし高断熱住宅のためには壁よりもむしろ、屋根について考えることが大切なのです。

屋根について考えることの大切さ

ではなぜ、家の断熱性能を高めるために屋根が大切なのでしょうか。

少し頭の中で思い描いてみてください。

太陽の日差しを最も受けるのは、家のどの部分でしょうか?

そう、屋根です。

「窓について考える」でも説明しましたが、夏の太陽の位置は高く、ほぼ真上から日差しが照りつけます。

そのため、壁の表面よりも屋根の表面部分がより熱くなるのです。

【夏の表面温度(例)】

・屋根表面:70℃
・外壁表面:40℃

一方、冬はどうでしょうか?

熱の伝わり方の一つである「放射」については、「基本のキ!なぜ冬に家は寒くなる?」で詳しく説明しました。

何も無いところでも、熱いところから冷たいところへ電磁波の形で熱は移動します。

そしてこれも「基本のキ!~」で取り上げましたが、宇宙空間は-270℃という非常に冷たい空間です。

そのため、地上の熱は放っておくとドンドン宇宙空間へ吸い上げられてしまいます。

これを「放射冷却」と呼んでいます。

冬は晴れている日の方が曇っているときよりも寒くなるのは、そのため。

雲がいわばお布団の役割を果たし、地上の熱が宇宙空間へ逃げていくのを防いでくれているわけです。

では家の中で、宇宙空間に直接面しているのはどこでしょうか?

そう、屋根です。

そのため、何もしないと屋根からどんどん熱が空(宇宙空間)へ吸い上げられるというわけです。

【冬の表面温度(例)】

・屋根表面:-10℃
・外壁表面:0℃

このことは身近なところでは、車のことを考えると分かりやすい。

冬の寒い朝に車に霜が降りることがありますが、それはたいてい車のルーフやボンネット部分で、側面のドアに霜が降りることは少ないですよね?

これも放射冷却によるもので、家の場合も壁よりも屋根の方が冷たくなるのです。

夏に太陽の日差しから室内を守るために、そして冬は家の中の暖かさを上空へ逃さないために、屋根の断熱について考えることが大切なのです。

屋根の断熱のために必要なこと

では屋根の断熱性能を高めるために、どんなことをしたら良いのか。

答えは簡単で、十分な性能の断熱材を必要な分だけ屋根に設置すれば良いのです。

「窓について考える」では、断熱材のことをセーターに例えて説明しました。

断熱材はセーターと同じく内部にある空気層によって、熱の移動を遮断します。

そしてセーターがその素材(ウール、カシミヤ等)によって暖かさが変わるように、断熱材も素材によってその性能が異なります。さらに厚いセーターが暖かいのと同じように、断熱材もその厚さによって断熱性能が変わってくるとというわけです。

「何を、どのくらい」

というのが、断熱材についての基本的な考え方となります。

では、屋根に必要な断熱材の厚さはどのくらいだと思われますか?

先ほどの屋根と壁の表面温度に、室温も加えて考えてみましょう。

【夏の表面温度(例)】

・屋根表面:70℃(室温差45℃)
・外壁表面:40℃(室温差15℃)
・室温:25℃

夏の外気温が35℃の場合、壁の表面温度は白っぽい壁でも40℃程度、黒っぽい壁ならさらに高くなります。そして屋根はそれをさらに上回るのは説明した通り。

この時に室温を25℃と仮定すると、外壁表面との温度差は15℃、屋根表面との温度差は45℃になる計算です。

その差は3倍。

つまり、断熱材も屋根は壁の3倍の厚さが必要になるというわけです。

【冬の表面温度(例)】

・屋根表面:-10℃(室温差30℃)
・外壁表面:0℃(室温差20℃)
・室温:20℃

冬の場合は室温20℃と仮定すると、外壁表面との温度差は20℃、屋根表面との温度差は30℃で、その差はおよそ1.5倍。

夏の3倍と冬の1.5倍の間を取って、屋根に入れる断熱材は壁の2倍というのが現実的な考え方です。

実際に旭化成建材のホームページでも、「ネオマフォーム」という断熱材を関東を含む4~7地域では壁に入れる厚さを45mm、そして屋根に入れるべき厚さを95mmとしています。

(参考:https://www.asahikasei-kenzai.com/akk/insulation/neoma/wood/classification.html)

45mmと95mmですから、屋根に入れる断熱材はやはり壁の2倍程度の厚みが必要というわけですね。

ところが!

あくまでも私の経験上の話ですが、一昔前はどの工務店でも断熱材の厚さは壁も屋根も同じというところがほとんどでした。

そして今でも、そのようにしている工務店も決して少なくありません。

理由は、面倒くさいから。

今ほど家の断熱性能に対する意識が高くなかったころは、屋根の断熱材の厚さを気にする施主なんてほとんどいなかったのです。

そのため、ただ単に施工が大変だからという理由で、屋根と壁の断熱材の厚さを同じにしてしまう。「壁に〇〇mmの断熱材を入れたから大丈夫ですよ」と言うわけです。

屋根について、どんな考え方をしたら良いのか?

快適で健康的な家づくりには、屋根について考えることが非常に大切です。

よく夏は2階に上がるとムワッと熱くなり、逆に冬は2階がとても寒くなる家がありますが、これは屋根の断熱がきちんとされていないから。

「窓について考える」で説明したように日射遮蔽をしっかりと行い、屋根の断熱性能を適正に高めれば、そうしたことにはなりません。

逆に屋根断熱によって夏に外の熱気が侵入することを、そして冬に家の中の暖かさが逃げることを防げますから、夏でも冬でも室温を一定に保てる快適で健康的な家にできるのです。

【屋根についての基本的な考え方】

地域に応じた適正な屋根断熱を取り入れる
屋根の断熱材の厚さは壁の2倍を基本とする

この2つの点を、ぜひ覚えておいてください。

屋根について、どんな選択をしたら良いのか?

新築の場合は、建売なら購入前に、注文住宅なら設計の段階で屋根の断熱材の厚さを必ず確認してください。

とはいえ特に注文住宅の場合は、デザイン性も大切です。どうしても厚い屋根が見た目や自分の好みに合わないのであれば、性能の良い断熱材を使用することによって屋根の厚みを抑えることが可能です。

例えば上で紹介したネオマフォームという断熱材は、最も一般的な断熱材であるグラスウールと比較して約2倍の断熱性能を備えています。つまりネオマフォームならグラスウールの半分の厚さで済むわけです。ただしその分コストも余計にかかってしまいますが。

逆に見た目や物理的な問題がないのであれば、屋根の厚みを大きく取って、その分コストを抑えるという考え方もあるわけです。

【新築の場合】

屋根の断熱材の厚みを事前に必ず確認する
予算やデザインに合わせて最適な断熱材と厚さを選択する

「何を、どれだけ」という、断熱材の基本的な考え方をぜひ応用してください。

既存住宅で屋根断熱が不十分な場合、屋根に断熱補強を行うのがおすすめです。

屋根の断熱補強にも色々な方法がありますが、例えば断熱材の一種であるウレタンを屋根や天井に吹き付ける「現場発泡ウレタン」という工法なら、およそ25万円~で施工可能です。

【既存住宅の場合】

屋根もしくは天井の断熱補強を行う
性能やコスト的には現場発泡ウレタン工法がおすすめ(もちろん現場によって異なる)

既存住宅をリフォームして高断熱化しようとする時、真っ先に取り組むべきなのは窓ですが、屋根も非常に効果が高いのでぜひ取り組んでください。

まとめ

屋根断熱は、壁の断熱よりも大きなインパクトをもたらします。

快適で健康的な家づくりのためには、屋根に対して「どんな断熱材を、どれだけの厚み」にするのかしっかり判断しなければなりません。

もしも「屋根の断熱材の厚さは壁と同じで大丈夫です」とハウスメーカーの営業マンや工務店が言うのであれば、そこは避けたほうが無難でしょう。

既存住宅の場合も、高断熱リフォームでまず手を付けるのは窓からですが、屋根も費用対効果の非常に高い部分です。

ついつい見落としがちな屋根についても、しっかりと検討なさってくださいね。

この記事を監修した人

スタイルオブ東京株式会社
代表取締役 藤木 賀子

宅建士、公認不動産コンサルティングマスター(アンバサダー)
不動産コンサルティング、売買仲介、住宅建築プロデューサーとして2000件以上の相談を受ける。
お客様にとっての『毎日を楽しく暮らすお手伝い』を実現するために、正しい知識を提供すること、お客様と住宅業界・不動産業界のコミュニケーションギャップを無くすことに使命をもって奮闘中。

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