気密の重要性
高断熱住宅の購入を検討している人でも、家の気密についてはどれほど真剣に考えているでしょうか?
モデルハウスを見学していても、「この家は断熱等級◯◯です」や「耐震等級◯◯ですから安心です!」などと宣伝するかもしれませんが、気密性能について聞くことはほとんどありません。
2024年4月から建物のエネルギー性能を表示する「建築物の省エネ性能表示制度」がスタートしましたが、その中にも気密性能は含まれていないということは、現状で気密を気にする人がほとんどいないということを表しているのかもしれません。
【建築物省エネ性能表示制度で示される表示ラベル】
・エネルギー消費性能
・断熱性能
・目安光熱費
しかし実は家の気密性能は、断熱性や省エネにも大きく関わる大切な要素なのです。
気密について考えることの大切さ
家の断熱性能と気密性能は、セットで考えなければなりません。
「気密」とは、簡単に言うとどれだけ空気の出入りがあるかを示すものです。
つまり気密性の高い家とは限りなく隙間の無い家のことであり、逆に気密性の低い家は様々な隙間から風が入り込む家ということになります。
当サイトでは家の断熱を、たびたびセーターで例えてきました。
セーターを着込むと暖かくなるように、家の断熱性能を高めれば冬でも家の中は暖かくなります。
しかしそのセーターの網目が緩くて、穴だらけだったらどうでしょうか?
その役目を果たすことはとてもできないでしょう。
同じようにどれだけ家の断熱性能を高めても、気密性能が低ければ全く意味がありません。
気密が低いということは家の中に隙間が多くあるということであり、せっかく暖めた室内の空気がどんどん外に逃げていくからです。逆に夏は暑い外気が家の中に入り込んでしまう。これでは台無しです。
日本では昔から、風通しの良い家づくりを旨としてきました。
冷暖房機が普及していなかった時代は、夏場の暑さを乗り切るための風通しを重視し、冬の寒さは着込んだり暖を取ることでしのいできたのです。
しかし、今は時代が異なります。
家の断熱性能を高め、なるべく省エネで快適な家にする。
そして冬でも暖かい家にすることによって、健康的な家にする。
快適で健康的な家づくり。
これこそがこれからの時代に求められる家づくりであることは、当サイトをご覧の方なら十分に承知していることでしょう。
そのために絶対的に必要なのが、気密性能の高い家、つまり高気密住宅なのです。
もちろん高気密住宅でありながら、風通しの良い家にすることは可能です。
風通しの良い家とはつまり、窓の配置と設計にかかっているわけですから。
とはいえ、風通しを重視するあまり、日射取得と日射遮蔽を蔑ろにしてしまっては元も子もありません。
「窓について考える」で説明したように、家の断熱性能はいかに冬の日差しを取り込むか、そして夏の日差しを遮るかにかかっています。
そのために南面の窓をなるべく大きくして庇をつけ、東西北面の窓はできるだけ小さくするのが大原則。
その上で風通しが良いのであればそれに越したことはありませんが、パッシブデザインよりも風通しを優先させてはならないのです。
ただ実際のところ、高断熱・高気密住宅で風通しの良さを気にする必要はほとんどないのですが…。
というのも、そもそも2003年の建築基準法改正で、全ての新築の建築物に24時間換気システムを設置することが義務化されました。
そのためわざわざ風通しを良くしなくても、ちゃんと家の中は換気できるようになっているのです(換気については後でさらに説明します)。
「窓について考える」でパッシブデザイン(日射遮蔽・日射取得)の大切さを、そして「屋根について考える」で屋根断熱がなぜ必要かを考えましたが、高断熱住宅にはその2つに加えて、気密性能がとても大切なのです。
【快適で健康的な家づくりに絶対に必要な要素】
・夏:「日射遮蔽」✕「断熱」✕「気密」
・冬:「日射取得」✕「断熱」✕「気密」
このことを、ぜひ覚えておいてください。
気密性能の低い家はどうなるか?
では気密の重要性をより良く理解するために、気密性能の低い家でどんなことが起きるかを考えてみましょう。
冬の寒い日には、暖房を使って部屋の中を暖めるでしょう。
暖められた空気は軽くなるので、上に上がっていきます。
気密性の低い家は、その空気が天井や屋根から上に抜けていってしまう。
さらに部屋の中の空気が抜ける反作用で、冷たい空気が下から引っ張り上げられます。
結果として頭のあたりは暖かくても、足元が寒いという状況が生み出されてしまうのです。
実際に、そういう家も多いと思いませんか?
このことは暖房機の性能が悪いわけではなく、家の気密性が低いことによって生じているのです。
それを回避するために、よく床暖房を設置している建売住宅を見かけますが、高気密住宅では床暖房も必要ありません。下から冷たい空気が入ってこないので、足元だけが寒いということが起こらないのです。
逆に低気密の家では足元が寒いと暖かさをあまり感じないため、暖房を強くするかもしれません。
しかしそうすると暖められた空気がさらに上に抜けていって、結果的に冷気もさらに下から引っ張り上げられるという悪循環に陥ってしまう。
そのため低気密の家は快適性から程遠いだけではなく、暖房費も余計にかかってしまうことになるのです。
快適で健康的な家づくりには高断熱と高気密がセットでなければならない理由が、お分かりいただけたのではないでしょうか。
高気密住宅は換気が悪い?
そうは言っても、高気密住宅は換気が悪くて息が詰まるんじゃない?
そんな疑問を、よく頂戴します。
高気密住宅とは隙間の無い家のことなので、なんとなくのイメージでそう感じてしまうのも無理はありません。
しかしそれは、全くの誤解です。
むしろ高気密住宅の方が一般的な住宅よりも換気が効率的に行われ、きれいな空気の中で生活できるのです。
風通しが良くて空気の出入りが多い家よりも、高気密で24時間換気システムが働いている家の方が換気がしっかり行われるということを、次の例えで考えてみましょう。
2つの水槽があるとイメージしてみてください。
A:全く隙間が無く、2時間に1度、水を全て入れ替える
B:あちこちに細かな穴が空いていて、水が漏れている。
漏れているのと同じ分の水がチョロチョロと上から注がれている。
さて、このAとBの水槽のうち、水がきれいなのはどちらでしょうか?
答えは簡単。Aの水槽ですよね。
Bの水槽でもある程度、中の水は入れ替わりますが、水の流れが悪いところはずっと淀んでいる可能性が高い。
それよりも2時間に1度水を全て取り替えるほうが、圧倒的に水槽の中がきれいになることは容易に想像できるはずです。
高気密住宅はAの水槽と同じように、24時間換気システムで2時間に1度、部屋の中の空気が入れ分かるので室内の空気はきれいな状態を保つことができます。
一方Bの水槽のような低気密の家では、たとえ最新の換気システムを設置しても外気が入り込んでしまうので、効率的な換気は期待できません。
結論として、高気密住宅の方が計画的な換気を行えるため、より快適な居住空間を生み出せるのです。
気密について、どんな考え方をしたら良いのか?
いくら家の断熱性能を高めても、気密性が低ければ全く意味がありません。
気密性の低い家ではせっかく暖めた部屋の中の空気が外に逃げていき、夏は逆に外の熱気が入り込んでしまうからです。
そのため高断熱住宅にしたいのであれば、家の気密性能も高める必要があります。
新築の場合は具体的にはC値が1.0以下、可能であればC値0.5を達成することを目標としてください。
C値1.0以下を達成した上でその家に最適な換気システムを設置すれば、冬は暖かく夏は涼しい、快適で健康的な家に住むことができるでしょう。
【新築の場合】
・C値1.0以下を目指す
・家の設計に最適な換気システムを設置する
既存住宅の場合、古い家はもちろんのこと、10年以内に建てられたような比較的新しい家でも、基本的に気密性は低いと考えなければなりません。
日本ではこれまで、高気密住宅を求める人はほとんどいなかったからです。
消費者が求めないものを、メーカーが提供するはずはありません。
そのため、既存住宅を高断熱住宅にリフォームしたいと考える場合、気密性を高めるための方策も講じるべきです。
【既存住宅の場合】
・既存住宅は基本的に全て気密性能が低いものと考える
・高断熱化のためにリフォームを行うなら、気密性能も一緒に上げるべき
気密について、どんな選択をしたら良いのか?
では、家の気密性を高めるためにどんな選択をしたら良いのでしょうか?
まず新築住宅の場合、気密についてしっかりとした対策を講じているハウスメーカーや工務店を選ぶ必要があります。
というのも気密性(C値)というのは、設計の段階で推し量ることは不可能だからです。
なにしろ相手は僅かな隙間ですから、どれほど注意しても施工がずさんなら、いくらでも隙間はできてしまう。
そのために、気密性を高めるために必要な施工をしっかりとしてくれる業者を選ぶ必要があるのです。
例えば、換気ダクト周りは必ず隙間ができます。そこをしっかりコーキングしましょうとか、ジョイント周りもシートでしっかり囲みましょうとか、コンセント周りは大丈夫かとか、そうした一つ一つの作業をしっかり行うことが、気密性の高い家づくりのためには不可欠なのです。
また調湿気密シートという家の中の湿気を外に放出できる気密シートがあるのですが、シート同士のジョイントや、柱や壁周りをどのように施工するかという業者の腕で、効果も大きく変わってしまいます。
気密については、これだけやっておけば大丈夫!というものは無く、一つ一つの施工を隙間ができないようにしっかり行わなければならないのです。
そのため高気密の家づくりに必要なのは、家を建て始める前に、しっかりとしたコミュニケーションをとることです。
設計者や施工者に対して、気密性の高い家づくりをお願いする。
その際にただ単に「気密をがんばってください」と言うのではなく、具体的に「C値1.0以下にしてください」と依頼してください。
新築の建売住宅を購入する場合は、高断熱だけではなく高気密もしっかりと保証してくれるハウスメーカーを選ぶしかありません。
例えば一条工務店では高気密住宅として販売している住宅ではC値を実測しており、その平均値は0.59だそうです。
(参考:https://www.ichijo.co.jp/technology/element/airproof/)
いくら気をつけてもちょっとしたことで隙間は空いてしまうので、引き渡し前に実際に気密測定をしてくれるハウスメーカーなら、安心して家づくりをお願いできるでしょう。
【新築の場合】
・事前に業者としっかりとコミュニケーションを取って、C値1.0以下の家づくりをお願いする
・実際にC値1.0以下の家づくりを実現しているハウスメーカーを選択する
・引き渡し前に実際に気密測定をお願いする
既存住宅でも、気密性能を高めることは可能です。
例えば「屋根について考える」で紹介した、ウレタンを天井や屋根裏に直接吹き付ける「現場発泡ウレタン」ならば、断熱と一緒に気密性能を高めることが可能です。
そして可能なら屋根だけではなく、床下にも吹付け工事をする。
そうすると上と下の隙間がなくなりますから、空気の出入りをかなりシャットアウトすることが可能です。
屋根と床下もそれぞれで、25万~で工事できるはずですから、費用対効果は非常に大きいと思います。
その上で「窓について考える」で説明したように窓に内窓をつけてあげれば、既存住宅でも断熱性と気密性を大幅に向上させられるのです。
ただ問題なのが、気密を意識したリフォーム工事をしてくれる業者さんの数が非常に少ないということ。
これも先に述べましたが、原因は気密性を気にする消費者が少ないから。ニーズが小さいので、高気密リフォームを手掛ける業者も少ないのです。
もし周りに高気密リフォームをお願いできる業者がいなければ、新築の高気密住宅を手掛けている工務店にお願いするというのも一つの方法です。
もちろんリフォームを引き受けてくれるかどうかは相手次第ですが、こちらのお願いの仕方次第で先方の心を動かすことができるかもしれません。「あなたの会社の技術力にすがりたいんです!」とお願いされて、嫌な顔をする人はいませんよね。ハウスメーカーは無理でしょうが、地元の工務店ならリフォームを引き受けてくれるかもしれません。
【既存住宅の場合】
・高気密リフォームを手掛けている業者を探し出す。
・屋根と床下の吹付け工事で気密性を高める
・実際に気密測定をしてみる
新築でも既存住宅の場合でも、やはり実績があって信頼できる業者を選ぶことが一番大切です。
気密は目に見えませんから、しっかりと気密測定をすることも大事。
気密測定は5万円程度で行えますから、気になる方は今住んでいる家の気密を測ることから始めても良いかもしれませんね。
まとめ
高断熱住宅を望む時に、家の気密について考えることを避けて通れません。
「高断熱」と「高気密」は車の両輪のように、必ずセットでなければ意味をなさないのです。
新築住宅の場合は、高断熱だけではなく高気密住宅を施工できる業者にお願いすること。そして既存住宅でも、家の気密性を高めることは十分に可能です。 気密の重要性についてもしっかり理解した上で、ぜひ快適で健康的な家づくりを実現させてください。