高断熱の家づくりとコストの考え方
「どこまで断熱性能を上げるべきか?」では、断熱等級6もしくは断熱等級7の家づくりを目指すこと、目先の建築費だけではなく、トータルコストで考えることを提案しました。
家が完成した後のトータルコストまで含めて考えると、やはり快適で健康的な高断熱住宅にすることは当然の選択であり、さらに時代の必然でもあるというのはご理解いただけたと思います。
とはいえ、やはり高断熱住宅づくりにもコストの問題はつきまといます。
予算には限りがあるため、家づくりには『どこに』コストを振り分けるかという考え方がとても大切です。
そこでここでは、高断熱の家づくりとコストに関しての基本的な考え方と、コスパ良く高断熱住宅を建てるための方法について、一緒の考えてみましょう。
高断熱の家づくりとコストに関して、どんな考え方をしたら良いのか?
まず大前提として、最低でも断熱等級6、可能ならばぜひとも断熱等級7の家づくりを目指しましょう。
断熱等級7なんてオーバースペックだ。という人もいます。
しかし今から20年ほど前、「次世代断熱基準」と呼ばれる断熱基準が提唱された時にも、同じようにそれほどの断熱性能は必要ない、と言われたものです。
しかし、その「次世代断熱基準」は今の基準で言うと断熱等級4程度。これが、これからの新築住宅では絶対に達成しないといけない最低限度の断熱性能となっているのです。
そうしたことを考えると断熱等級7も決して贅沢なものではなく、快適で健康的に過ごすためにも、なるべく高レベルの断熱性能を求めるのは当然のことではないでしょうか。
そうした点を前提とするならば、家づくりにおいてまずコストをかけるべきなのは「設備」ではなく「性能」ということに気がつくはずです。
例えば総予算3,000万円で30坪の家を建てようとする場合、良くあるのは豪華なキッチンにしたいとか、お風呂にはこだわりたいというようなことではないでしょうか。ハウスメーカーの営業マンもしきりにそういった「設備」面を強調します。何しろパッと見で違いが分かるので、訴求力が高いんですよね。
一方、断熱性や気密性といった家の「性能」は目に見えないので、一般の人はイメージしずらいし、営業マンもアピールしにくい。
そのためどうしても「性能」よりも「設備」にコストをかけがちなのですが、その考え方を改めてほしいのです。
家づくりにおいてまずコストをかけるのは「性能」であって、「設備」はその後に考える。
というのも、キッチンやお風呂は後からでも変更可能ですが、家の性能はそういうわけにはいかないからです。
まずは家の「性能」をしっかりと高めて、お金に余裕がある時に設備をより良くしていけば良い。
特にこれからは、100年住める家づくりがスタンダードになってくるはずです。そうなると、キッチンやお風呂などの設備は数十年で寿命を迎えるので、どうしても途中で交換しなくてはなりません。
それならば設備は後回しにして、まずは性能にコストをかけるのは何も特別なことではなく、合理的な考え方とも言えるのではないでしょうか。
そうした基本的な考え方のもと、なるべくコスパ良く高断熱住宅を建てるための方法を考えるのです。
例えば断熱等級4から断熱等級6まで上げるにはおよそ60万円、断熱等級7にまで上げるには300万円ほどのコストが必要と言われています。
しかし、こうしたコストは、もっと下げられる可能性があります。
上の例で上げた30坪で3,000万円の家を建てる場合、断熱等級4から断熱等級7にするには3,300万円必要ということになりますが、3,000万円の家をコストダウンして2,700万円にできれば、3,000万円で断熱等級7の家を建てられることになります。
最近は高断熱住宅への関心が高まっているために、坪単価100万円は普通という空気になってきていますが、工夫次第ではまだまだ必要なコストは下げられるはずです。
中には便乗値上げではないか?と感じる工務店もなきにしもあらずですから、そうした空気に流されずにしっかりと『中身』を吟味しましょう。
【高断熱の家づくりとコストについての基本的な考え方】
・まずは家の性能にコストをかける
・コスパの良い高断熱住宅づくりを目指す
まずはコストをかけるべき部分をハッキリさせ、そのコストを下げる方法を考える。それで予算内でに余裕が生まれれば、ほかに回せば良いのです。
では、コスパ良く高断熱住宅を建てるにはどうしたら良いのでしょうか?
高断熱住宅を建てるコストを下げるためには、様々な方法があります。
いくつかの例を考えてみましょう。
コスパの良い建築材料選び
一軒の家を建てるには、当然ですが非常に多くの資材を必要とします。
そのためコスパの良い資材を選ぶことが、コスパの良い高断熱住宅づくりに直結します。
例えば、断熱材。
一口に断熱材と言っても、様々な種類のものが販売されています。
それぞれメリット・デメリットがあるのでどの断熱材が一番!とはなかなか言いがたいのですが、ここでは最も一般的な断熱材の一つであるグラスウールと、軽くて加工しいやすいため現場でも人気のあるボード系の断熱材を、コスパの観点から比較してみましょう。
「熱伝導率」はその名の通り、熱の伝わりやすさを示します。この数値が小さいほど熱を通しにくい、つまり断熱材としての性能が高いことを表します。
業者向けのカタログにはこの熱伝導率が表示されていることが多く、これだけ見るとボード系の断熱材の方が性能が高そうに見えますが、実はこれだけでは何とも言えません。
というのも、断熱材はその「厚さ」によって断熱性も変わってくるからです。厚いセーターと薄いセーターでは当然ですが暖かさも違いますよね?それと同じです。
厚さを加味した上での断熱材の性能を示すのが、「熱貫流率」です。「W/㎡K」という単位によって表され、これは「U値」とも言われています。
ボード系の断熱材は厚さ5cm程度で施工されることが多く、グラスウールはだいたい10cmほど。
この厚さで両者を比較してみるとほとんど変わらないどころか、若干ですがグラスウールの方が性能が良くなってしまいます。
この上で両者の1畳あたりの値段を比較してみると、実際の性能にほとんど差はないのにも関わらず、グラスウールとボード系の断熱材では約4倍もの値段の差があることが分かります。
そうしたことを知らずに、あるいは知ったうえでボード系の断熱材を工務店が使ったとしても、消費者としてはそれを知ることは難しい。もちろんしっかりとした見積書なり仕様書なりを見ればどんな断熱材を使っているかの確認もできるかもしれませんが、こんなに値段の差があることまではなかなか分からないんでしょう。
もちろん施工の難しさでグラスウールを避ける工務店さんもいらっしゃいます。グラスウールは丁寧に施工しようと思うと、それなりに手間もコストもかかります。
断熱等級4とか断熱等級5くらいなら、あまり隙間を気にせずに(こう言ってはなんですが)適当にグラスウールで施工できますが、断熱等級6または断熱等級7にするためにはキッチリ気密を取らなければならない。グラスウールでは手間もコストもかかるので、他の断熱材を。と言うわけです。
ただその場合も、例えば「屋根について考える」で紹介した「現場発泡ウレタン」という断熱材を使う手もあります。
グラスウールの単価を「1」とした場合、発泡ウレタンの単価はおよそ「1.5」程度。しかも発泡ウレタンで丁寧に施工した場合の施工費まで考えると、単価はそれほど変わらなくなってくるそうです。それならば、施工もしやすく気密性もしっかり取れる現場発泡ウレタンの方が良いですよね。
このようにコスパという観点で考えると、断熱材一つとってもしっかり考えなければ無駄に高い家となってしまうのです。
性能に大きな違いはないのに、価格に大きな違いがあるのは何も断熱材に限った話ではありません。
なるべくコスパの良い資材を使うことによって、コスパ良く高断熱住宅が建てられるのです。
シンプルな家のデザイン
注文住宅を建てる場合、どうしても凝ったデザイン、家のカタチにしたいものです。
その気持はとても良く分かりますが、コスパの良い高断熱住宅という観点から考えると、家のデザインはなるべくシンプルなものにすることをお勧めします。
なぜなら高断熱住宅に最適な家の基本的なデザインは、建てる土地によってほぼほぼ決まってしまうからです。
というのも、断熱性能を大きく左右するパッシブデザインを第一にして設計すると、その場所によって最適な家のカタチというものが自然と導き出されてしまうのです。
それを無視して家の外観やデザインにこだわろうとすると、コスパの悪い家になってしまいます。
そうではなく、なるべく敷地に適したシンプルな家のデザインにする。もちろん、間取りや家の大きさなどはある程度の融通はききます。ここで述べているのは、あくまでも基本的な家のデザインのことです。
凝ったデザインではなく、建てる場所に合わせた素直でシンプルなデザインの家のカタチにする。そうすると見た目は普通かもしれませんが、とても住みやすい家になります。しかも、コストはずっと抑えられる。
これが、コスパ良く高断熱住宅を建てる秘訣です。
家の工法(大型パネル)
家の建て方によっても、コストは大きく変わってきます。
コスパの良い高断熱住宅のために私がお勧めしたいのが、大型パネルを使った新しい家の建て方です。
これまでは家を建てる時には基礎工事の後に土台を築き、柱や針などの構造材を職人さんが組み立ててきました。いわゆる「棟上げ」ですね。棟上げが終わったら屋根を敷いて、床や外装工事に進みます。
これを工場であらかた仕上げてしまおうというのが、大型パネルです。
柱や梁といった構造材だけではなく、面材や間柱、断熱材に窓枠などもまとめて一つのパネルに組み込む。あとはその大型パネルを現場まで運び、組み上げるだけ。現場での作業も省略化できるため、コストを抑えながら高品質の家づくりが可能となります。
ただ大型パネルを使っても現場管理がスムーズにいかないと余計なコストがかかったり、運搬費まで含めると在来工法よりも高くついてしまう場合があるので、その点での見極めも必要になります。
家づくりには見積書を見ただけでは分からない、手間やコスト(間接費)がかかります。例えば、サッシはA店に注文し、防水シートはB社、断熱材はC店など、それぞれの資材を別々の業者に発注するのですが、それには時間もコストもかかります。
またどんなに注意しても、職人さんも人間なのでミスは起きるもの。資材の寸法や数量を間違えて発注してしまったために現場作業ができず、職人さんを1日遊ばせてしまった…。というようなことも、現場ではありがちなのです。そうなると工期も伸びるし、その分コストもかさんでしまう。
ところが、工場でまとめて大型パネルとして製造すると、そうした手間や余計なコストを最小限まで圧縮できます。さらに職人さんの腕に依存しないので、仕上がりも一定した高品質を保てるわけです。
業務の効率化はコストダウンの基本中の基本。建売住宅を大規模に手がけるハウスメーカーやパワービルダーの場合は家の構造や仕様をなるべく統一化することによってコストダウンを実現しています。
しかし注文住宅の場合は一軒ごとに設計も異なるため、工務の効率化が非常に難しい。それを工場で管理し大型パネルとして製造することによって、徹底的な品質管理とコストダウンを図っているのです。
ここで挙げた方法は、コスパ良く高断熱住宅を建てるためのいくつかの例に過ぎません。
こうした様々な工夫を重ねることによって、予算内でも十分な断熱性能を持つ家を建てることが可能なのです。
高断熱の家づくりとコストに関して、どんな選択をしたら良いのか?
コスパ良く高断熱住宅を建てるための基本的な考え方と、コストダウンを可能にするいくつかの方法を見てきました。
しかし肝心なのは、それをどのように実現したら良いかということ。
そこでコスパ良く高断熱住宅を建てるために、ぜひ以下のような選択をしてほしいと思っています。
【コスパ良く高断熱住宅を建てるための選択肢】
・パッシブデザインに基づいたシンプルなデザインにする
・コスパの良い家づくりが可能な業者を選ぶ
・業者選びに悩んだら、プロに相談する
まずは上でも考えたように、家のデザインをパッシブデザインに適したシンプルなものにしましょう。
家の外観や見た目ももちろん大事ですが、それよりも大切なのは快適で健康的な家にすること。
断熱性能6または断熱性能7を達成すること第一にして、そのためにふさわし家のデザインを選択する。その上でもし予算に余裕があるのであれば、自分の趣味やこだわりの部分に注ぎ込めばよいのです。
とはいえ、パッシブデザインに適したデザインを選択するには、その土地にあったふさわしいデザインを設計できる業者を選ばなければなりません。
「断熱性能を大きく左右するパッシブデザインを第一にして設計すると、その場所によって最適な家のカタチというものが自然と導き出されてしまう」と述べましたが、「自然に」というのは何も考えなくても出てくるという意味ではもちろんありません。パッシブデザインに基づいたデザインをしてきた人なら、土地と周りの状況を見ると「自然に」最適なデザインが浮かんでくるという意味です。
パッシブデザインの大切さを理解していない人、またはパッシブデザインに基づいた設計をデザインしたことがない人にはもちろんそうした芸当は期待できません。
そのため、高断熱住宅のための最適なデザインを設計できる人に家づくりをお願いするのです。
デザインだけではありません。
高断熱住宅を建てるためのコストを下げる方法があるとしても、業者がそれを知らなかったり、その手法を取り入れなければ絵に描いた餅になってしまいます。
つまりパッシブデザインを十分に理解し、シンプルなデザインを手掛け、コスパの良い建築方法を採用している会社を選択する。それがコスパの良い高断熱住宅づくりのための大鉄則です。
で、す、が。
それこそが、家づくりにおいて一番難しい問題なのです。
そんな業者を知っていて高断熱の家づくりをお願いできるなら、最初から苦労しませんよね。
最近は松尾設計室の松尾さんのように、実際に高断熱住宅を数多く手掛けてそのノウハウをYouTubeで発信している人もおられます。そうした高断熱住宅づくりの実績を持っている業者に家づくりをお願いできるのであれば、ぜひそうしてください。
しかしそんな業者が身近にない、あるいはツテがないという人も多いはず。
その場合は、ぜひ不動産のプロを頼ってください。
ここで言うプロとは、ハウスメーカーや工務店の営業マンではありません。
第三者の立場であなたの家づくりを手伝う、プロの不動産エージェントのことです。
不動産エージェントの多くは宅地建物取引士(宅建士)の資格を持つ不動産取引の専門家ですが、ただ単に不動産を仲介するだけの存在ではありません。
コスパの良い高断熱住宅づくりを願うあなたの代理人として、家づくりにまつわる様々な問題に一緒に取り組み、アドバイスやサポートを提供します。
業者選びだけではなく、土地探しや住宅ローン選び、業者との交渉など、家づくりにまつわる様々な問題に関してあなたの「代理人」として行動するのです。
不動産エージェントは特定のハウスメーカーや建築会社に属しているわけではありませんから、あくまでも中立的な立場であなたの手助けを行います。
そんな不動産のプロに助けてもらうなら、高断熱の家づくりもかなり楽になると思いませんか?
コスパ良く高断熱住宅を建てたいなら、ぜひ不動産エージェントに相談してみてください。
でも不動産エージェントって実際にはどんなことをしてくれるのか?どうやって不動産エージェントに相談したら良いのか?といった点については、また改めて説明します。
まとめ
家づくりには、確かにお金がかかります。
しかし本当にシンプルなデザインにするなら、断熱等級6はもちろんのこと、断熱等級7を目指しても実はそれほど大きなコストはかかりません。
まずは自分の家づくりのどこにコストをかけるのか、そこを明確にさせましょう。
第一にするのは家の性能であり、キッチンなどの設備はその後に考えるべき。
その上で、コスパ良く高断熱住宅を建てられる業者を選択してください。
そのためには自分自身がしっかりとした知識を取り入れることももちろん大切ですが、プロに相談することもためらわないでほしいのです。
投資目的などで自分のお金を誰かに預けようと思ったら、その人(業者)が本当に信頼できるか、実績はどうかなど、徹底的に調べるのではないでしょうか。
家づくりは、人生の中でも一番大きな買い物。
大切なお金を無駄にしないためにも、本当に信頼できる業者に家づくりをお願いしましょう。 そのためにプロの不動産エージェントが、あなたのお役に立てるかもしれません。