高断熱住宅のためのエアコンの選び方【前編】
高断熱の家づくりには家そのものだけではなく、家の中を暖める(もしくは冷やす)方法について考えることも含まれます。
というのも、「はじめに:なぜ今、家の断熱について考えるべきか?」でも述べましたが、エネルギー問題は待ったなし。なるべくエネルギーを使わずに、家の中を快適に保つ方策を講じなければならないのです。
夏の冷房はエアコンに頼る人がほとんどでしょうが、冬の暖房には何を使うのが良いのでしょう?
実は、暖房にもエアコンが最も効率良いのです。
【暖房エネルギー効率ランキング】
1位 APF5以上のエアコン
2位 灯油ファンヒーター、APF4程度のエアコン
3位 ガスファンヒーター、APF3程度のエアコン
4位 電気ストーブ、ホットカーペット
電気料金や灯油代によって若干の誤差はあるのですが、大まかなイメージが上の通り。
灯油ファンヒーターよりも、エアコンの方がエネルギー効率が良い(より少ないエネルギーで熱を生み出せる)のです。
でも、ランキングにエアコンが3つも登場しているのはどうしてでしょうか?
それはエアコンによって効率性能にも差があるから。
その性能を示すのが、「APF」です。
高断熱住宅の冷暖房にはエアコンを使えばよいわけですが、何でも良いというわけではありません。
高断熱住宅のためのエアコンの選び方について、一緒に考えていきましょう。
高断熱住宅のエアコンについての基本的な考え方
住宅展示会場に出かけると、エアコンの室外機が4~5台、あるいはそれ以上ついている家を見かけることがあります。エアコンをガンガン効かせて「この家はこんなに快適ですよ」と言われても、なんだかなぁ。という感じではないでしょうか。
高断熱・高気密住宅では夏でも冬でも室温がある程度一定に保たれるので、冷暖房に必要なエネルギー量(冷暖房負荷)は少なくてすみます。
つまり、エアコンの台数や電気料金をそれだけ抑えられるということ。
まずは、断熱性能の高い家にする。
これが大前提で、その上でエアコンについて検討してください。
高断熱住宅のためのエアコンについては、以下の2つのポイントを考えましょう。
・エアコンの最適設計
・どんなエアコンを選ぶべきか
高断熱住宅を「ハード」だとすると、空調計画を含めたエアコンは「ソフト」とも言えます。
しっかりとした箱を用意した上で、快適な環境をどれだけ効率よく整えられるかを考えるのです。
ではこの2つのポイントについて、それぞれ見ていきましょう。
エアコンの最適設計
住宅におけるエアコンの最適設計とはつまり、「いかに効率よく家の中を快適に保てるかをデザインする」ということです。
その家にピッタリ合った空調システムを設計すれば、エアコンの台数を減らせた上で、冷暖房費も抑えられます。
実際にエアコンが最適設計された家と、各部屋にエアコンをつけた家とでは、年間の冷暖房費がおよそ3倍も変わってくるという報告もあります。
しかも、エアコンの設計自体にコストはほとんどかかりません。
知恵と工夫によってエアコンの購入&設置という初期投資も、その後のランニングコストも抑えられるわけですから、高断熱住宅を建てる人が空調計画を無視するのは全くのナンセンスです。
では、具体的にどんなことを考えたら良いのか?
ぜひ次の3つの点を検討なさってください。
1.エアコンの台数をなるべく少なくする
高断熱住宅は夏は外からの熱の侵入を防ぎ、冬は室内の温度を外に逃がしません。夏でも冬でも室温の変化が小さいため、一般的な住宅よりもエアコンの負担は小さくなります。
それはつまり、エアコンの台数も少なくできるということ。
実際に30坪~40坪のくらいの家であれば、エアコン1台で家全体の空調をまかなうことも決して不可能ではありません。
特に最近は建築費の高騰で新築の家も小さくなる傾向があります。家がコンパクトであればあるほど、冷暖房の効率もより高くなるのは必然。
ただ私は、どれだけ小さな家でもエアコンは2台用意することをおすすめしています。
理由は、夏場のバックアップ。
エアコンが1台だけだと、故障した時に非常に困るのです。
高断熱住宅では冬にエアコンが故障しても、例えばファンヒーターが1台あるだけで部屋全体を暖めることが可能です。
ところが、夏はそうはいかない。
しかも猛暑が当たり前になりつつある昨今、唯一のエアコンが故障してしまうと目も当てられません。修理するにしても新しいエアコンを購入するにしても、しばらくはエアコン無しで生活することを覚悟しなければならない。
それはちょっと無理ではないでしょうか。
そのため、エアコンはバックアップを兼ねて2台を基本とする。この後で説明する小屋裏エアコンにしても、1台よりは2台の方が設計も施工も簡単になります。
よほど大きな家でない限り、高断熱住宅ではエアコンは2台あれば十分です。
2.24時間冷房を基本とする
高断熱・高気密住宅においては、基本的には夏と冬はエアコンをずっと稼働させる24時間空調がおすすめです。
エアコンを24時間つけっぱなしにするなんて、電気代がもったいない!と思われるかもしれませんが、逆です。
高断熱住宅においては、24時間つけっぱなしのほうが、エアコンの電気料金が安くなるのです。
松尾設計室の松尾さんが行われたシミュレーションによると、普通の断熱性能の家でエアコンを5台使用する場合、8月の電気料金は10,962円、年間では118,953円もかかってしまうそうです。
それが断熱等級6クラスの高断熱住宅でエアコンを最適化し、2台で24時間稼働した場合の8月の電気料金は6,958円、年間でも49,140円と、かなり安くなることが分かります。
しかしこれは、日射遮蔽と日射取得というパッシブデザインがしっかりされており、断熱・気密性能が高い家の場合、という条件付きです。
でもそれは、私がここでずっと説明している高気密高断熱住宅に他なりません。
そうした家では冬の日差しをたっぷり取り入れるので、冬でも暖かい。夏の日差しは遮って外の熱を遮断するので、室温も上がらない。その上に気密性能が高いので、余計な湿度や熱が移動することもほとんどない。基本的に快適な環境なので、エアコンにそこまで負担がかからないんですね。
さらにエアコンはこまめにオン・オフするよりも、つけっぱなしの方が運転効率が高いという特性があります。
それらの要素が組み合わさった結果、高断熱・高気密住宅でエアコンが最適設計された場合は、24時間つけっぱなしのほうが電気料金が安くなるというわけです。
こうしたことを話すと、必ず換気のことを心配される方がいます。
しかしこれも何度も説明してきた通り、新築住宅においては24時間換気が義務付けられていますから、わざわざ窓を開けて換気する必要はありません。
それよりもむしろ、夏は窓を閉めっぱなしにして、エアコンを24時間つけっぱなしにしたほうが電気代は安くなる。もちろん部屋の中はずっと快適な状況が保たれますから、こんなに良い話はないわけです。
夏は24時間冷房が基本ですが、冬はそうではありません。
というのも、冬の昼間は日射取得で家の中は自然と暖かくなりますから、寒冷地以外は朝と夕方以降だけエアコンを回せば大丈夫。もちろん天気の悪い日には、昼間もエアコンを使ってください。
3.小屋裏エアコンと床下エアコンという選択
エアコン1台ないしは2台で家全体の空調をまかなおうとした場合、どのようにデザインするかが大切になります。
もし平屋でほとんど間仕切りが無いような家であれば、別に難しく考える必要はありません。しかし2階建てでそれぞれの部屋が独立している場合、どうやって家全体を暖めたら良いのか。
最近注目されているのが、小屋裏エアコンという空調設計です。
小屋裏エアコンとはその名の通り、小屋裏(屋根裏)にエアコンを設置し、ダクトを使って各部屋に冷気を送るというものです。
いわゆる「全館空調」とは違って大がかりな設備を必要としないので、コストもそれほどかかりませんし、エアコンも普通の住宅用で問題ありません。
冷気は下がる性質がありますから、エアコンを家の一番高いところに持ってくるというのは理屈の上でも正しい。
逆に暖気は上昇するので、もう1台のエアコンを床下に持ってくる。これが床下エアコンです。
いわゆる床暖房と違って普通のエアコンを床下に設置し、その空気を送るという考え方で、小屋裏と同じように普通に家電量販店で販売されているエアコンを用います。
このように理屈上は非常に優れた空調設計ですが、小屋根裏・床下エアコンにもそれぞれメリットとデメリットが存在します。
- 最小のエアコン台数で家全体を涼しくできる
- 初期費用・ランニングコストともに抑えられる
- エアコンが小屋裏にあるため、動作音がほとんど聞こえない
- 高断熱・高気密住宅であることが大前提
- 小屋裏を作る必要がある(フラットな屋根だと難しい)
- 屋根断熱が必要(天井断熱は不可)
- 家全体を涼しくするのに時間がかかる
小屋裏エアコンはその特性上、屋根裏にスペースを確保する必要があります。三角屋根である必要はありませんが、フラットな屋根だとスペースが無駄になってしまうかもしれません。
またエアコンを設置する場所は『室内』である必要があるため、天井断熱ではなく屋根断熱を施さなければなりません。その分のコストの差も検討する必要があるでしょう。
また家全体を涼しくするのには時間がかかりますから、やはり24時間冷房が基本となります。
- 家全体を暖められる
- 床暖房よりもコストを抑えられる
- 床材の制限が無い
- 大がかりな工事が不要
- 床下の高断熱・高気密化が必須
- 床は基礎断熱でなければならない
- 特定の部屋だけを暖めることはできない
床下エアコンは床暖房のように床自体を暖めるのではなく、エアコンの温風を利用します。床下の気密性能と断熱性能が低いと温風が弱くなってしまうため、しっかりとした施工が必要になります。
またエアコン一台で家全体を暖められるというのはメリットですが、逆に言うと特定の部屋だけをさらに暖めるということは難しい。その場合には、ファンヒーターなどの別の暖房機を用意する必要があるでしょう。
小屋裏エアコンと床下エアコンをセットで利用するのが理想的ですが、床下エアコンの設置が難しいのであれば、小屋裏エアコンのみという選択もありえます。
その場合は、小屋裏エアコンをバックアップを兼ねた2台にしてください。
どちらにしても、小屋裏エアコン、床下エアコンともにどんな家にも設置できるというわけではありません。
そのため、メリット・デメリットをよく見極めて決断なさってください。
小屋裏エアコン・床下エアコンは、あくまでもエアコンを最適設計する一つの例に過ぎません。
大切なのは、その家にあった空調プランを設計すること。
原則は、なるべくコスト(初期投資+ランニングコスト)を抑えながら、家全体を快適な状態に保てる方法を見つけることです。
それはやはり、素人には難しい。
そのため、ぜひともしっかりとした設計事務所や工務店を選んでください。 長くなりましたので、続きは【後編】で説明していきたいと思います。