高断熱住宅と太陽光発電
高断熱住宅を建てようと考えている人ならば、きっと太陽光発電を設置すべきかどうかも検討なさっていることでしょう。
しかし最近はYouTubeなどで太陽光発電についての発信も多く、一体なにが正しいのかよく分からないという声もよく聞こえてきます。
実際に私も、太陽光発電について明らかに間違った情報を発信している動画を見たことがあります。
消費者としてできることは、情報を発信している「人」を見極めること。
動画配信者が自分のことを「プロ」と名乗っていたとしても、その人は本当に高断熱住宅と太陽光発電についてのプロでしょうか?確かにその人は建築会社の社長という「プロ」かもしれません。しかしもしその人が、高断熱住宅を一軒も建てたことが無いとしたら?その情報の正確性については、疑ってかかるべきではないでしょうか。
私は快適で健康的な暮らしを実現させるために、しっかりとした性能を持つ高断熱住宅をいかにコスパよく建てたら良いか説明してきました。
太陽光発電についても、ぜひ正しい情報を取り入れてほしいと願っています。
高断熱住宅に太陽光発電を設置すべきかどうかの判断は、予算やライフスタイル、地球温暖化などの環境問題への考え方によっても変わってくるでしょう。
しかしまず知っておきたいのは、東京都の太陽光発電の設置義務化制度についてです。
東京都の太陽光発電設置義務化制度とは
東京都は2022年に環境確保条例を改正し、新築住宅に関して太陽光パネルを設置することを義務付けました。
対象となるのは延床面積2000㎡未満の新築住宅。屋根面積が20㎡未満で太陽光パネルが設置できない家は対象外となります。
2025年4月に施行予定ですが、制度の対象となるのは家を建てる個人ではなく、年間都内供給延床面積が合計2万㎡以上のハウスメーカーや工務店。
つまり、2025年4月以降に大手ハウスメーカーや工務店で東京都内に家を建てる場合は、太陽光発電を設置しなければならないということになります。
この条例自体には様々な問題点も指摘されていますが、何もなければ来年には新築住宅への太陽光パネル設置が義務付けられるでしょう。
でも、どうして東京都はわざわざ条例を改正してまで、太陽光パネルの設置を義務化したのでしょうか。
それは言うまでもなく、二酸化炭素などの温室効果ガスを削減するためです。
東京都は2030年までに都内の温室効果ガスを50%削減する「カーボンハーフ」の実現を目指しています。太陽光パネル義務化はその目標達成のための手段の一つで、このことは建築関連の条例ではなく、「環境確保条例」の改正ということからも明らかでしょう。
各家庭に太陽光発電を設置し、自然エネルギーで電力を自家消費できれば、二酸化炭素を大幅に削減できるわけです。
さらに発電所で作る電気の量も少なくて済むので、エネルギーの安定確保にも寄与できます。
そしてこれらはもちろん、東京の話だけではありません。
日本は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、「カーボンニュートラル」を宣言しています。
日本に住む私たち一人一人が、温室効果ガス削減のために何をすべきか真剣に考えなければなりません。
神奈川県の川崎市も、東京都と同じタイミングで太陽光発電設置の義務化を予定しています。
こうした流れは、他の自治体にも波及していくかもしれないのです。
高断熱の家づくりを目指すのは、健康的で快適な暮らしを実現させるためですが、エネルギー問題とも直接関係する話。その点は「はじめに:なぜ今、家の断熱について考えるべきか? 」で説明したとおりです。
高断熱・高気密住宅は夏でも冬でも家の中は快適なので、冷暖房費があまりかからない。それが結果的には温室効果ガスの排出削減にもつながる。
お財布にも、地球にも優しい家。
最終的に設置するかどうかは別として、家づくりを考えている人は太陽光発電についても真剣に検討すべきなのです。
環境問題も大切なテーマとはいえ、何もメリットがなければ自分の家に太陽光発電を設置しようとは思わないでしょう。
その点、高断熱住宅に太陽光発電を設置することには大きなメリットがあります。
1.ZEH住宅化
高断熱住宅は元々の断熱性能が高いため、太陽光発電を設置することによってZEH住宅の認定を受けやすくなります。

「断熱等級」と「ZEH」は別の基準なので一概には言えませんが、ZEH住宅の認定を受けるのは高断熱住宅であることが大前提となります。
そのため高断熱の家づくりを目指している人ならば、ZEH住宅の認定を受けることも考えるとよいでしょう。
なぜなら、ZEH住宅の認定を受けると55万円、さらに高い基準の「ZEH+」ならば100万円の補助金を受け取れるからです。
また2024年現在、新築住宅に太陽光パネルを設置する場合の国からの支援はありませんが、自治体によっては補助金を出しているところもあります。
例えば東京都では、太陽光発電設置に対して最大45万円の補助金を受け取れます。
4kW程度の太陽光パネルの導入費用はおよそ100万円~と言われていますから、補助金を活用することによって初期コストをかなり抑えられるでしょう。
またZEH住宅としての認定を受けられれば、家の資産価値を高めることにもつながります。
(本文中で紹介している補助金などの情報は全て、2024年6月現在のものです。今後も条件や内容が変更される可能性が高いので、必ず最新の情報を確認なさってください)
2.光熱費の削減
高断熱住宅に限らず、自宅に太陽光発電を設置する人の願いは、光熱費が少しでも安くなることではないでしょうか。
昨年の電気料金の高騰は、まだ記憶に新しいはず。
では実際に、太陽光発電を設置することでどれほど光熱費を削減できるのでしょうか?
「太陽光発電協会(JPEA)」によると、太陽光発電1kWあたりの年間発電量はおよそ1000kWhとされています。それを単純に365で割ると、1日あたりの発電量は1kWあたり約2.7kWhということになります。
(https://www.jpea.gr.jp/wp-content/themes/jpea/pdf/susume_pamphlet.pdf)

一方で「平成26年度東京都家庭のエネルギー消費動向実態調査報告書」によると、戸建住宅に住む4人家族の月平均電気使用量は436kWh。1日あたりでは約14kWhになります。
ということは、6kWの太陽光パネルを設置すれば、家全体の電気消費量を太陽光発電でまかなえる計算になります(2.7kWh×6=16.2kWh)。
もちろん夜や天気の悪い日は発電できませんから、この数字のとおりにはなりません。しかしそれでも、太陽光発電がかなりの電気料金節約につながることは容易にイメージできるでしょう。
では高断熱住宅に太陽光発電を設置すると、光熱費がどのくらい節約できるのでしょうか。
断熱等級6のオール家電住宅で、5.7kWの太陽光発電を設置しているご家庭の実際のデータですが、冬のある月の電気料金は約6,700円でした(売電分差引済み)。
その月の電気使用量は437kW。地域や利用プランによって異なりますが、仮に35円/1kWhで計算すると、15,295円となります。
その差は約8,500円。かなりの光熱費削減ですよね。
高断熱住宅は光熱費が元々あまりかからないのですが、そこに太陽光発電を設置することによって、さらに光熱費を節約できるというわけです。
3.発電所の一次エネルギー消費量の削減
光熱費を削減できるということはすなわち、エネルギー量を削減できるということですが、その恩恵はただ単に家計に優しいというだけにとどまりません。
発電所で発電するために使用する、石油や天然ガスなどの一次エネルギーも削減できるのです。
なぜなら、発電所で発電するとき、そしてその電気を各家庭まで送電する際のそれぞれでロスが生じるからです。
4kWの太陽光発電が1年間に発電できる電力量は、約17.3GJ(ギガジュール)。その電力を発電所で発電するには、約46.7GJ分の一次エネルギーを消費しなければなりません。
太陽光発電で電力を生み出すということは、国全体で見た時により大きな一次エネルギー消費量の削減につながります。それが最終的に温室効果ガス削減にも貢献するということを、ぜひ覚えておいてください。
4.電気自動車の最適化
今すでに電気自動車を所有している人、もしくはこれから電気自動車の購入を検討している人は、太陽光発電を設置するメリットが非常に大きくなります。
というのも、外で充電(急速充電)する時と太陽光発電を利用して充電する時とを比べると、その違いは歴然だから。
例えば日産の公式サイトによると、eMP充電スポット利用料金は「プレミアム100」というプランで、月額基本料金が4,400円。これで一ヶ月に100分間の急速充電が可能です。
(https://www.nissan.co.jp/EV/CHARGE_SUPPORT/ZESP3/)
日産の電気自動車、リーフ(40kWh)は1分間に0.55kWの急速充電が可能ですから、100分間では55kWh。これを4,400円で割ると1kWhあたり80円が充電にかかるコストということになります。
これを家で充電すると、普通に電気を利用しても1kWhでおよそ35円。もちろん急速充電ではないので時間はかかるのですが、それでも倍以上の差があることになります。
そしてこの充電を太陽光発電で生み出した電力で行うと、もちろん無料。
電気自動車と太陽光発電は、抜群の相性と言えるのです。
ただし太陽光パネルが発電できるのは昼間だけなので、通勤・通学に電気自動車を利用する人は別途、蓄電器を購入する必要があるでしょう。
とはいえ、電気自動車を所有している人が太陽光発電の設置をためらう理由はないと私は思います。
5.災害時でも電気を利用できる
太陽光発電があれば、地震や台風などの自然災害で停電になった時にも電気を利用できます。
スマホの充電やエアコンの使用など、災害時は電気のありがたみをより一層感じる、というのは被災者からよく聞かれる言葉ではないでしょうか。
夜間に利用するにはやはり蓄電器が必要になりますが、太陽光発電は災害への備えにもなるのです。
太陽光発電にはメリットだけではなく、デメリットも存在します。
ここでは特に、高断熱住宅に太陽光発電を設置する際のデメリットについて考えてみましょう。
1.メンテナンス費用がかかる
太陽光発電を使い続けるためには、定期的なメンテナンスが不可欠です。
高断熱住宅のメリットの一つが冷暖房費を削減できることですが、太陽光パネルの維持にそれ以上のコストが発生するのでは意味がありません。
では実際のところ、太陽光発電のメンテナンスにはどのくらいの費用がかかるのでしょうか?
経済産業省による「第82回 調達価格等算定委員会」によると、5kWの太陽光発電にかかるメンテナンス費用は以下のようになっています。
(https://www.meti.go.jp/shingikai/santeii/082.html)
- 定期点検費用:3.5万円(4年に1度)
- パワーコンディショナー交換費用:約30万円(10~15年ごと)
これからすると、太陽光発電を20年使う場合のメンテナンス費用の合計は約50万円。年間では2.5万円、1ヶ月換算では約2,000円ということになります。
いかがでしょうか。
さきほどの光熱費の削減量と比較すると、たとえメンテナンス費用がかかったとしても太陽光発電を設置するメリットの方が大きいと言えるのではないでしょうか。
2.発電できない時期がある
太陽光発電の発電量は、夏と冬で大きく異なります。
冬場は発電量が少ないので、寒冷地に設置することはあまりおすすめできません。
実際に寒冷地では、太陽光発電の設置がZEH住宅の要件から免除されることもあることからも明らかでしょう。
そのためむしろ太陽光発電について考える場合には、夜間に発電できない問題について考えることの方が大切でしょう。
太陽光パネルが発電できるのは昼間だけ。
しかし日中は家の中に誰もいない、ということが多いのではないでしょうか。むしろ電気を使うのは夕方以降でしょう。
この問題をどうするか。
解決策は次の2つとなります。
1.補助金を利用して蓄電器をセットで導入する
2.太陽光発電に最適な給湯器を組み合わせる
太陽光パネルで発電した電気を蓄電器に蓄えておけば、夜間でもその電気を利用できます。
問題は、蓄電器の金額が高いところ。
蓄電器の分野は日進月歩なのでこれから金額も下がっていくことが予想されますが、現時点では蓄電器を購入した場合は太陽光パネルで発電しても元が取れません。
そこで、補助金を利用するのです。
例えば東京都では太陽光発電(3.75kW)と蓄電池(10kWh)を同時購入すると、最大で165万円の補助金を受けられます。
蓄電器への補助金制度は自治体によって異なりますし、予算がなくなり次第終了ということもありますので、ぜひ建設予定地の自治体に確認なさってください。
蓄電器購入の補助金が利用できない場合は、太陽光発電に最適な給湯器を組み合わせて利用しましょう。
その点については、次回の「高断熱住宅のための給湯器の選び方」で詳しく説明したいと思います。
高断熱住宅と太陽光発電についての基本的な考え方
高断熱の家づくりにおいて太陽光発電の設置は必須ではありませんが、様々なメリットがあるのも事実です。
とはいえ予算の問題もあるので、悩ましいところ。
寒冷地であったり、物理的に太陽光パネルの設置が難しいのでなければ、ぜひ次の点を考えながら決断なさってください。
・高断熱住宅+太陽光発電の設置でZEH住宅の認定が受けやすくなる
・補助金を活用できないか検討する
・給湯器とセットで考える
長期的に考えると太陽光発電にはメリットの方が大きいので、設置自体に物理的な問題がないのであれば、前向きに検討なさることをおすすめします。
補助金を活用できれば、予算の問題も解決できるかもしれません。
しかし補助金も業者に丸投げしてしまうと申請費用を請求されてしまうかもしれませんから(それ自体が悪いわけではもちろんありません)、なるべく自分で調べるか、専門のプロに相談すると良いでしょう。
まとめ
これからも予想される電気料金の高騰や、地球温暖化、エネルギー問題などを考えると、家づくりの際には太陽光発電についても真剣に考えてほしいところ。
とはいえ、はじめからネガティブな情報を発信して閲覧数を稼ごうとする『自称プロ』も多いので、ぜひ公的な機関が出している情報や、正確な数字を元に検討なさってください。
しかし家づくりには検討しなければならないことがあまりにも多いので、とても太陽光発電までは考えが及ばない、と思われるかもしれません。
その時はぜひ「本物のプロ」に頼って、間違いのない家づくりを実現させてください。
この記事を監修した人

スタイルオブ東京株式会社
代表取締役 藤木 賀子
宅建士、公認不動産コンサルティングマスター(アンバサダー)
不動産コンサルティング、売買仲介、住宅建築プロデューサーとして2000件以上の相談を受ける。
お客様にとっての『毎日を楽しく暮らすお手伝い』を実現するために、正しい知識を提供すること、お客様と住宅業界・不動産業界のコミュニケーションギャップを無くすことに使命をもって奮闘中。