窓について考える
家の断熱性能を高めたいと思う時に真っ先に考えるべきなのが、窓についてです。
でもどうして、窓なのでしょうか?
「基本のキ」でも考えましたが、熱の伝わり方には次の3通りの方法があります。
1.伝導
2.対流
3.放射
何もしなければ物理の法則に従って、これらの3つの方法で冬は家の中の熱が外へ、逆に夏は外の熱が室内へ移動します。
この熱の移動を防ぐのが、壁の中にある断熱材です。
しかし窓には、壁の中にあるような断熱材は入っていません。
そのため、窓への対策が必要なのです。
実際、家の中に熱が伝わる一番大きな要因が、窓と言われています。
冬は家の中から外へ流出する熱の約50%が、そして夏は外から室内へ流入する熱の74%が窓を介して行われるのです。
家の断熱性能を高めるために、まず窓について考えることの重要性が分かっていただけたでしょうか。
さらに、こんな興味深いデータがあります。
10,000人以上を対象に行われた住宅(新築・既存住宅含む)に対するアンケートで、住まいに関する不満や不安を尋ねたところ、ワースト3が以下の結果となりました。
お分かりですか?
そう、全て窓が大きな原因となっている事柄なのです。
せっかく高断熱住宅にしても、窓がちゃんとしていなければ全く意味がありません。
では、窓についてどんなことを考えれば良いのか?
その前に、もう一つ覚えておいてほしい言葉があります。
それが「暖房負荷(冷房負荷)」です。
暖房負荷と冷房負荷も家の断熱性能を考えるのに大切な要素で、これからも度々登場してくると思います。この機会に、ぜひ覚えておいてください。
冷暖房負荷が大きければ大きいほど必要なエネルギー量(エアコンならば電気量)も大きくなり、逆に冷暖房負荷が小さければそれだけ必要なエネルギー量も少なくなります。
冷暖房負荷が小さいほど、断熱性能が高くてエコな家というわけです。
そして家の暖房負荷を決める3大要素と言われるのが、以下の3つとなります。
1.日射取得と日射遮蔽:5割
2.断熱性 :4割
3.気密性 :1割
勘の良い方はお分かりだと思いますが、この3大要素にも窓が大きく関わってきます。
つまり窓についてしっかりと考えることで、暖房負荷と冷房負荷を抑えたエコな家になる。そして暑さ寒さ、結露といった問題も解決した快適な家にできるというわけです。
ではこうした点を踏まえた上で、家の断熱性を高めるために必要な窓のことを考えていきましょう。
窓の位置について考える
まず初めに考えるべき点は、窓の位置についてです。
なぜなら窓の位置と大きさは暖房負荷に一番大きな影響を与える、日射取得と日射遮蔽に直接関係するからです。
太陽は、無料で使える暖房機のようなものです。
例えば同じ服装であっても日陰に行けば寒く感じますし、日なたに出ると暖かいですよね?
実生活で誰でも知っていることを、家にも同じようにすることは至極当然のことではないでしょうか。
仮に断熱性能が同じ家ならば、太陽の熱エネルギー(日差し)の取り入れ方一つで、冬の暖かさと夏の涼しさも大きく変わってくるわけです。
窓を通して太陽が家の中に与える熱エネルギーは、670Wほどだと言われています。
これはだいたい、こたつ1台分に相当します。
考えてみてください。
冬にこたつ1台分の熱を部屋に取り入れられたらどれほど暖かくなるか、逆に夏にこたつ1台分の熱が入ってきたらどれほど暑くなるか、簡単に想像できますよね。
そのため、窓の位置を最適化して日射取得と日射遮蔽を最大化することは非常に大切なのです。
別の言葉で言い換えると、「太陽に素直な家の設計を行う」となるでしょうか。
これを、パッシブデザインと言います。
パッシブデザインに基づく窓の位置の基本的な考え方は、次の通り。
【窓の位置についての基本的な考え方】
・南側の窓を大きくして庇をつける
・それ以外の窓を可能な限り小さくする
こうすることによって、日射取得と日射遮蔽を最大化することが可能です。
南側の窓を大きくしてそれ以外の窓を小さくすることが、どうしてパッシブデザイン上優れているのか、もう少し詳しく解説してみましょう。
冬の場合
まず基本的なこととして覚えておいてもらいたいのは、夏と冬では太陽の角度が大きく異なるということ。夏至と冬至では、40度ほども異なるそうです。
冬の日差しは低く、部屋の奥まで太陽の光が差し込みます。
そのため南側の窓を大きくすることによって、太陽エネルギーをたっぷり取り込むことが可能なのです。
夏の場合
一方で夏の場合は、日差しがほぼ真上から照りつけます。
そのため南側の窓に庇をつけることによって日差しを遮り、余分な室温の上昇を食い止めることが肝要です。
加えて夏の間は日の出が早く日の入りも遅いため、冬と違って家の東側・西側・北側ともに日が差し込みます。特に夏場の西日は強烈ですよね。そのため可能な限りその三面の窓を小さくすることが、日射遮蔽にとって大切なポイントとなるのです。
(イメージ図)
もちろんこれはパッシブデザインに関する基本的な考え方で、実際に家を建てる場所によって状況はそれぞれ異なります。
例えば、家の南側に隣接するように隣家が建っていて、冬に日差しを十分に取り込めないような場合。
そうした時には、なるべく隣家との距離が取れるように家を北側にずらしたり、一番日差しを取り込みたいリビングの位置を西側に持ってくるなどの設計変更が必要になってきます。
それを考えるのが、設計の仕事。
家のデザインだけではなく、パッシブデザイン上最適な家のカタチを考えるのも、設計の大切な役割です。というか、それができない設計士や工務店は避けた方が無難でしょう。
それとありがちなのが、2階の窓には庇がついているけれど、1階の窓には庇がないという家。
これもパッシブデザイン上、失敗した設計となります。
そのため窓の位置と庇の有無については、設計の段階でしっかり確認しておいてください。
ここまでは主に、新築住宅を建てる場合の考え方です。
既存住宅をリフォームしたり、中古住宅を購入する場合には、窓の位置を変更することは難しいでしょう。
その場合は窓の位置を変更せずに、日射取得と日射遮蔽を最大化できる方法を考えます。
例えば、窓の外側にアウターシェードをつけることは、日射遮蔽にとても効果的です。
日本では昔から、すだれやよしずを使って日差しを遮ってきました。経験上、日射遮蔽の有効性を知っていたんですね。
その上で、室内にはハニカム構造の断熱ブラインドなどを設置するとさらに効果が増します。
ハニカム構造のブラインドは中に空気を閉じ込めることで、いわば窓の断熱材の役割を果たします。外側と内側の両方から夏の日差しを遮るというわけです。
冬の日差しを最大限に取り入れ、逆に夏の日差しを徹底的に遮る。
このパッシブデザインに基づいた窓の位置を決めることが、家の断熱性能を高めるためにまず考えるべきことだということを覚えておきましょう。
窓ガラスについて考える
窓の位置について考えたら、次に窓ガラスそのものについて考えます。
家の暖房負荷を決める3大要素のうち、日射取得の次に大きな影響を及ぼす断熱性。それに関わるのが窓ガラスだからです。
何しろ室内と室外の熱の移動の一番大きな経路となっているのが、窓ガラスですからね。
とはいっても最近の新築住宅に用いられる窓ガラスのほとんどは複層ガラスになっているため、あまり難しく考える必要はありません。
実は空気は私たちに最も身近な断熱材で、熱伝導率は鉄の3,500分の1と、その性能も非常に高いのです。
セーターを着ると暖かいのも、実は空気のおかげ。
セーターは何本もの糸を編み込むようにして作られていますが、それによって繊維の間に空気が入り込み、かつ空気が移動しにくい(気密性が高いということ)ため、暖かいのです。
いわばセーターは、人間のための断熱材なんですね。
複層ガラスは間に空気の層を作ることによって、ガラスそのものの断熱性能を高めているのです。
複層ガラスにはペアガラスとトリプルガラスの他に、Low-Eガラスというものもあります。
Low-Eガラスはガラスの表面に特殊な金属膜をコーティングすることによって、断熱性能を高めたガラスのことです。主に、複層ガラスに対して用いられます。
そしてLow-Eガラスにも二種類あって、一つは熱の移動を遮る断熱タイプ、もう一つが日射を遮る遮熱タイプです。
断熱タイプのLow-Eガラスは日差しを取り込みながら、室内の暖かさが外に逃げるのを防ぎます。逆に遮熱タイプのLow-Eガラスは日差しを遮るので、夏の室温の上昇を抑えることができます。
窓の組み合わせとして最強なのが、南側の窓を断熱タイプのトリプルガラスにし、それ以外の窓を遮熱タイプのトリプルガラスにすることです。
こうすることによって、パッシブデザインに基づいて決めた窓の性能をさらに高めることができるわけです。
ただしこれは予算との兼ね合いになるので、リビングだけトリプルガラスにしてあとはダブルガラスの断熱タイプにするとか、組み合わせ方は色々。
間違えてほしくないのは、まずは窓の位置を正しく決めて、それから窓ガラスについて考えるという、この順番です。
住宅メーカーでよくやりがちなのが、「全ての窓ガラスを遮熱タイプのトリプルガラスにしたから夏でも涼しい家になりました!」というもの。
これは、大きな間違いです。
忘れないでください。
家の暖房負荷を決める3大要素のうち、もっとも影響が大きいのは日射取得と日射遮蔽です。
北面や西面に大きな窓を作った上で庇もつけずに、遮熱タイプのトリプルガラスにしたから大丈夫というのは、本末転倒。それで涼しい家になるはずはありません。
南側の窓は大きくして庇をつける。それ以外の窓は可能な限り小さくする。
その大原則を守った上で、どのタイプの窓ガラスにするかを決めるのです。
ぜひ、この順番を間違えないようにしてください。
既存住宅の断熱性能を高めたり、リフォームする場合には内窓を付けることが最も効果的です。
北海道に行くと良く分かりますが、ほとんどの家は外窓と内窓の二重窓になっています。北海道は外は寒くても家の中は暖かい理由の一つがこれで、外窓と内窓の間の空気の層によって断熱性能を高めているのです。
窓枠そのものを取り替えるのは、かなり大変。
それよりも、複層ガラスの内窓を付けるほうがコスパ的にもおすすめです。
内窓の設置にかかる費用はサイズによってももちろん変わりますが、工事費も含めて1ヶ所あたり10万円前後。
しかも最近は、自治体が内窓の設置に補助金を出してくれるところも多くなりました。
ぜひ「自治体名+内窓+補助金」で、一度検索なさってください。
また予算的に家の全ての窓に内窓を付けるのが難しいのであれば、せめてリビングだけでも二重窓にすると部屋の中は快適になりますし、冷暖房費もかなり削減できます。
窓枠について考える
窓ガラスだけではなく、窓枠も断熱性能に大きく関わってきます。
日本で窓枠といえばアルミサッシというのが常識でしたが、実はこれは世界的に見るとかなり特殊なのです。
というのも、アルミ(アルミニウム)は非常に熱を伝えやすい物質で、その熱伝導率はガラスの約200倍。
アルミのタンブラーに冷たい飲み物を入れると、その冷たさが手にもすぐに伝わりますよね?アルミの熱伝導率の高さゆえです。
窓全体に占める窓枠の比率は「ガラス4:サッシ1」と、実はサッシの占める面積がかなり大きい。
その窓枠を熱の伝わりやすいアルミにすると、断熱性能もそれだけ下がってしまうのは道理ではないでしょうか。
アルミは、そもそも窓枠に向かない素材なのです。
そのアルミが日本でここまで広まったのは、皮肉にも日本の技術力の高さゆえと言われています。
日本の優れた加工技術によって、精度が高いアルミサッシが安価に量産できるようになった。アルミサッシは軽くて丈夫というメリットがありますから、日本ではアルミサッシが主流になったんですね。
では世界はどうかと言うと、今は樹脂サッシが当たり前になっています。
樹脂サッシはアルミサッシと比較すると、約1,400分の1しか熱を通しません。
プラスチックのコップに熱湯を入れても手で持てるのは、熱を通しにくい(熱伝導率が低い)という樹脂の特性によるものです。
樹脂サッシはアルミサッシと比べると重くて、耐久性に劣るというデメリットも存在します。
しかし軽くても寒い窓ガラスと、多少重量は増しても暖かい窓ガラスなら、樹脂サッシの方を選ぶ人の方がほとんどではないでしょうか。
また樹脂サッシの寿命は約30〜50年と言われています。
そのくらい使うとサッシだけではなく、窓のその他の部分にもガタがきてしまいますから、樹脂サッシの耐久性に過度の期待も心配をする必要もなさそうです。
樹脂サッシとは別に、アルミと樹脂の2つの素材を合わせて作られた樹脂複合サッシというものもあります。実際に樹脂サッシではなく、樹脂複合サッシの方を使っている会社も多いですね。
その理由は、やはりコスト。
アルミサッシと樹脂サッシのコスト差は、およそ2倍。アルミサッシが1万円だとすると、樹脂サッシは2万円になります。樹脂サッシだと、ちょうど中間の1.5万円くらいでしょうか。
アルミサッシは使いたくないが、樹脂サッシは予算的に厳しい…という場合に、樹脂複合サッシが選ばれることが多いようです。
樹脂複合サッシには結露の心配があるため(結露については別で詳しく取り上げます)、基本的には樹脂サッシの方が良いのですが、例えばLIXILの「TW」などは結露の発生をかなり抑えています。
これからは樹脂複合サッシの性能もさらに上がってくるかもしれません。
さらに最近は、木製のサッシも登場しています。
木製サッシは断熱性能で言うと最高。樹脂サッシよりも優れています。
ただし、値段が非常に高い。
そのため家全体の窓を木製サッシにするのは現実的ではありませんが、例えばリビングなどの『勝負窓』だけ木製サッシにするというのはアリかもしれません。
既存住宅の場合は二重窓を取り付ける際に内側の窓を樹脂サッシにすることによって、断熱性能をさらに高めることができます。
また樹脂サッシは断熱性能だけではなく、気密性にも優れています。
つまり、パッシブデザインに基づいた正しい位置に窓を設置し、断熱性に優れた複層ガラスを用い、その上で樹脂サッシにすれば、家の暖房負荷を決める3大要素の全てを満たすことができるというわけです。
欧米ではすでに、樹脂サッシが主流になっています。
アメリカは全50州のうち24州でアルミサッシが禁止されていると聞くと、日本も樹脂サッシへの切り替えをもっと積極的に進めていくべきだと痛感させられます。
窓について、どんな考え方をしたら良いのか?
ここまで家の断熱性能を高めるための窓の重要性と、基本的な考え方について解説しました。
窓について、どんな考え方をしたら良いのかをまとめてみましょう。
【窓についての基本的な考え方:新築の場合】
・南側の窓を大きくして、断熱タイプの複合ガラスにする
・南側窓には必ず庇をつける
・それ以外の東西北面の窓は可能な限り小さくし、遮熱タイプの複合ガラスにする
・窓枠は樹脂サッシにする
【窓についての基本的な考え方:既存住宅の場合】
・複合ガラス+樹脂サッシの内窓をつける
・庇がない場合は、アウターシェードを設置する
・室内にはハニカム構造のブラインドなどで熱の移動を抑える
窓を正しい位置に設置し、適切な窓枠と窓ガラスを用いることによって、快適で健康的な家づくりにすることができます。
こうした家は冷暖房負荷も小さくなるので、家計にも地球にもエコな家となるでしょう。
窓について、どんな選択をしたら良いのか?
では、窓についてどのような選択をしたら良いのでしょうか?
ここまでお読みの方ならきっとご理解いただいているとは思いますが、念のためまとめておきましょう。
【新築の場合】
パッシブデザインの重要性を理解し、日射取得と日射遮蔽を考えた設計をしてくれる業者にお願いする
【既存住宅の場合】
自治体の補助金などを活用しながら、内窓をつけるなどして窓の断熱性能を高める
窓の位置を後から変更することは難しいため、新築の場合はパッシブデザインの重要性を理解し、それを設計に反映できる設計士や工務店に家づくりを依頼してください。
特に日射取得は周りの環境に大きく依存するため、敷地によっては設計変更が必要になることがあることも覚えておきましょう。
既存住宅でも窓を変更するだけで、家の断熱性能は格段に向上します。
冷暖房費が下がることを考えると元はすぐに取れるでしょうし、何より室内の快適さが全然違うことに多くの人がビックリされます。まずはリビングだけでも、内窓をつけることを強くおすすめします。
まとめ
窓について考えることは家の断熱性能を高めるための第一歩で、かつ非常に重要なポイントです。
日射取得と日射遮蔽は、私たちが考えているよりも室内の快適性に大きなインパクトがあるからです。
例えば断熱性能では同等の家でも、真冬に日差しが入りにくい家では室温が最高でも13℃しか上がらないのに対して、南側の窓から日差しをたっぷり取れる家では19℃まで上がるというシミュレーション結果もあるほどです(暖房なしの状態)。
逆に南面以外の窓を小さくして日差しをなるべく入れないようにしてあげれば、夏でも快適に過ごせるわけです。
もちろん家の基本的な断熱性能を高めると、その効果はさらに大きくなります。
逆にいくら家の断熱性能を高めても、窓がお粗末だと全く意味がないわけです。
家への不満のワースト3である、暑さに寒さ、そして結露。
窓を正しい場所に設置した上で庇をつけて、樹脂サッシの複合ガラスにするなら、これら3つの不満がなくなった、快適で健康的な家に住むことができます。
さらに冷暖房費も抑えられますから、家計にも地球にも優しい家となって良いことづくめ。
高断熱住宅のためには、まず窓のことから考えるべし。
そのことを、ぜひ覚えておいてください。