どこまで断熱性能を上げるべきか?

高断熱住宅が快適で健康的な家づくりであるということは、当サイトをここまでご覧になった方なら十分にご理解いただいているかと思います。
ただここで疑問なのが、どこまで断熱性能を上げたら良いのか?ということ。
というのも一口に高断熱住宅と言っても、その性能(レベル)は一律ではないからです。
さらに、コストの問題も関わってきます。
家の断熱性能を上げようと思えば当然ですが、その分のコストが発生します。
「はじめに:なぜ今、家の断熱について考えるべきか?」でも述べましたが、家づくりにはバランスが大切。
もちろんお金をかければ、自分の思い通りの家が建てられます。デザイン面はもちろんのこと、家の性能だって好きなだけ上げられるでしょう。
しかし当然ですが、予算には限りがある。
特に今は、建築費も高騰しています。以前なら3,000万円で建てられた家が、今は4,000万円必要ということも珍しくなくなっています。
断熱性能とコストの兼ね合いは、より大きな問題となっているのです。
ハウスメーカーの営業マンは「高断熱住宅は光熱費が抑えられるので、コストもすぐに回収できます!」と言うかもしれませんが、費用対効果という観点で考えた時にどのくらいの断熱性能が適当なのでしょうか。
そもそも、どのくらいの断熱性能の家が本当の意味で「快適で健康的な家」と言えるのか。
そうした点を、一緒に考えてみましょう。
おさらい:高断熱住宅のレベル
ではまず、断熱性能のレベルについておさらいしておきましょう。
家の断熱性能は、「断熱等級」によってそのレベルが示されています。
断熱等級
断熱等級4:1999年制定省エネ基準相当
断熱等級5:ZEH基準相当
断熱等級6:2022年新設。「HEAT20」G2レベル相当
断熱等級7:「HEAT20」G3レベル相当。現時点での最高レベルの断熱性能となる
実際には断熱等級1~3もあるのですが、2025年以降は断熱等級4が最低基準となるため、ここでは省略しています。

これから家を建てる人は、断熱等級4を満たすことが義務となります。
そのため一般的に「高断熱住宅」とは、断熱等級5以上の家ということになるでしょう。
断熱性能を示す数値について
上でも断熱等級を示す様々な数値が出てきましたので、その数値が何を示すのかも見ておきましょう。
<UA値>
経産省の「住宅における外皮性能」では、UA値が次のように説明されています。
・室内と外気の熱の出入りのしやすさの指標
・建物内外温度差を1度としたときに、建物内部から外界へ逃げる単位時間あたりの熱量を、外皮面積で除したもの
簡単に言うと、UA値とは家の壁や天井、床、窓などの「外皮」を通して、どのくらいの熱が室内と室外で移動するかを示すものです。熱がどのくらい外へ逃げやすいか、または中に伝わりやすいかを示す数値であるため、UA値が小さいほど「高断熱な家」となります。
<ηAC値>
同じく経産省の「住宅における外皮性能」から、ηAC値の定義を引用します。
・太陽日射の室内への入りやすさの指標〇単位日射強度当たりの日射により建物内部で取得する熱量を冷房期間で平均し、外皮面積で除したもの
・値が小さいほど日射が入りにくく、遮蔽性能が高い
つまりηAC値とは、太陽の日差しをどれだけ遮られるかを示す数値ということになります。
これまで考えてきたように、日射遮蔽と日射取得は家の断熱性能に直結します。そのためηAC値も非常に重要な数値なのですが、主に東北以北となる1~4地域と沖縄が含まれる8地域では、断熱等級にηAC値は考慮されません。そのため、建築業界では断熱性能について語る時には主にUA値が用いられています。

地域区分新旧表:001500182.pdf (mlit.go.jp)
<C値>
「気密の重要性」でも説明したように、C値は「相当隙間面積」とも言い、家にどれくらいの隙間があるかを示す数値です。C値が小さいほど、隙間の少ない家ということになります。
気密は家の性能に直接関係する非常に重要な要素ですが、C値は断熱等級の基準には取り入れられていません。
その理由は、C値は設計段階では計算することができないから。施工の良し悪しが気密に直結するため、家が完成してからでなくては実際の値を測定することができないのです。そのため、国もC値の基準を定めてはいません。
とはいえ、やはりC値が重要なのに変わりはありません。将来的には全ての新築住宅においてC値の実測が義務付けられるようになるかもしれませんね。
<Q値>
Q値もUA値と同じく、熱の逃げやすさを示す数値です。
UA値と異なるのが、Q値は外皮面積ではなく、延床面積で算出しているところ。
建物の延床面積が大きければ自動的にQ値も小さくなる(断熱性能が高くなる)ため、2013年の省エネ基準法改正によって、より正確な断熱性能が測定できるUA値が用いられるようになりました。
断熱性能はどこまでのレベルを目指すべきか?
断熱等級とそれにまつわる数値について理解できたところで、本題です。
家の断熱性能はどこまで上げるべきでしょうか?
結論から言うと、快適で健康的な家づくりという観点から考えるならば、断熱等級6もしくは断熱等級7。HEAT20基準ならG2~G3を目指すべき。
ただしG2からG3まで断熱性能を上げるのはかなりコストがかかるため、G2.5くらいがコスパが良いと言われています。G2.5相当のレベルでも、G3に近い断熱性能を期待できるそうです。
とはいえ、国の助成金や補助金を申請する時には、国が定めた基準である断熱等級が物差しとなります。そのためやはり基本的には、断熱等級で判断するのが良いでしょう。
【目指すべき断熱等級のレベル】
断熱等級6、もしくは断熱等級7
ではなぜ、このレベルの断熱性能を目指すべきなのでしょうか?
3つの観点から考えます。
①:トータルコストという観点
家は建てる時には建築費だけではなく、その後の暖房費(ランニングコスト)を含めたトータルコストで考えなければなりません。
いくら安く建てられるからと断熱等級4の家にした場合、その後の冷暖房費(電気料金)が高くついてしまう可能性が高い。
逆に最初に多少コストをかけてでも高断熱住宅にしておけば、その後の電気料金を抑えることができ、トータルコストとして優位に立てるのです。
では実際に普通の家と高断熱住宅を比較して、電気料金を含めたトータルコストはどのくらい変わってくるのでしょうか?
断熱等級ごとの電気料金は、「エネルギー消費性能計算プログラム住宅版」というものを使ってシミュレートすることが可能です。
そこで関東を含む6地域における、一般住宅の電気料金をシミュレーションしてみました。
断熱等級ごとの電気料金シミュレーション(参考例)

断熱等級4の家と断熱等級7の家を比較すると、年間の電気料金は6万1千円程度の差があることが分かります。
ではこのシミュレーションを踏まえて、断熱等級4の家と断熱等級7の家との建築費を含めたトータルコストを比較してみましょう。
高断熱住宅にするためにどのくらいのコストが必要なのかというのは難しい問題ですが、ここでは仮に断熱等級4から断熱等級7にするために200万円のコストが必要という設定で比較してみます。
建築費+電気料金のトータルコスト比較

このように、30年住めばトータルコストでほとんど差がないことが分かります。そしてそれ以降は逆転し、断熱等級7の家の方がトータルコストで安くなることが分かるでしょう。
またこのシミュレーションには、太陽光発電を設置した場合の差は考慮していません。さらに今後も電気料金が高騰していくであろうことを考えると、高断熱化のためのコストはもっと短い期間でペイできる可能性が高いのです。
そのためトータルコストという観点で考えると、やはり高断熱の家づくりを目指すべきであると言えるでしょう。
もちろんこれはあくまでも一つのシミュレーションに過ぎませんが、家を建てる場合には建築費だけではなく、光熱費を含めたトータルコストで考えることが大切だということはぜひ肝に銘じてください。
②:資産価値という観点
トータルコストで考えるとは言っても、もしかすると10年後にはその家を売るかもしれない…。
そのように心配される方もいらっしゃるかもしれません。
確かに、欧米のようにライフプランに合わせて住む家を替えるという人も増えてきました。
子育て中の期間と、子どもたちが独立した後とでは必要な家のカタチも違うというのは、確かに合理的な考え方です。
そのため、家を建てる時にはトータルコストよりもまず目先の建築費を優先する、という考え方も分からないでもありません。
しかしたとえ10年後に家を売る可能性があるとしても、コストをかけて高断熱住宅にする意味はあるのです。
なぜなら普通の家と高断熱住宅とでは、資産価値が大きく変わってくる可能性が高いから。
2025年に予定されている住宅基準法改正で断熱等級4が義務化されるというのは説明したとおりですが、実は2030年にはさらにその水準が引き上げられ、断熱等級5が最低基準とされる予定になっています。
つまりもしも今、断熱等級4の家を建ててしまうと、5~6年後には『時代遅れ』の家になってしまうということなのです。
そうなるといざ家を売るときになって、売却額が大きく下がってしまうことは容易に想像できるはず。
それならば、最初からある程度のコストをかけて断熱性能を高めたほうが住んでいる間も快適だし、家を売りたいと思ったときでも高値で売れる可能性が大きくなるというわけです。
将来的に家を売却する可能性がある人ほど、我が家の資産価値を高める方法を考えるべきではないでしょうか。
そしてこれからの時代を考えると、家の断熱性能は資産価値という観点からもマストになっていくに違いないのです。
③:快適さという観点
高断熱住宅を建てたいという一番の動機は、なるべく快適な家に住みたいということではないでしょうか。
しかし快適さというのは、人によって異なります。
その快適さを数値化したものが、「PMV(Predicted Mean Vote)」です。
PMVは温度、湿度、熱放射、気流、活動量、着衣量の6つの要素から、人間が感じる快適さを測ることができます。

(参照元:日本冷凍空調学会 (jsrae.or.jp))
PMVが0の場合、ほとんどの人が暑くも寒くも感じない最も快適な環境ということになります。
PPDはその環境下でどのくらいの人が不快と感じるかを示し、例えばPMV+2の場合、80%近くの人が暑いと感じ、逆にPMV-2の場合は80%近くの人が寒いと感じることを示しています。
PMVの6つの要素のうち、家の中では活動量と着衣量はその人によります。活動量は例えばソファに寝転がっているのか、掃除機をかけているのか。そして着衣量はパジャマなのかセーターを着ているのかといった具合。
熱放射はストーブなどの熱源の有無、気流は主に気密に関わっており、湿度は除湿・加湿に依存します(湿度に関してはまた別に取り上げます)。
そして最後の温度が、断熱性能に関係するわけですね。
PMVを-0.5から+0.5の間に保つというのが国際基準なのですが、これを実現するのはかなり大変。
興味のある人は「PMV 計算式」とググってもらえると計算式が出てくるので実際に計算できるのですが、例えばパジャマでソファに寝転がっている状況で快適に過ごすには、気密と湿度がしっかりされている状況でも、室温は23.0℃に保つ必要があります。
HEAT20のG3グレードが「暖房を入れなくても室温がおおむね15℃以上を保つ」とされていますから、室温23℃というのはなかなか大変ですよね。
もちろん足りない分は空調で補うわけですが、断熱性能が高ければ高いほど、暖房費も少なく済むというのは当然の話。
つまり家族の誰もが快適な環境の中で過ごしたいのであれば、やはり家の中の温度は大切で、それをなるべくエコに実現させるには高断熱住宅が必須ということなのです。
断熱性能のレベルに関して、どんな考え方をしたら良いのか?
高断熱住宅について考える時に、ネットの動画やハウスメーカーの営業マンから「UA値は~」という話をよく聞くかと思いますが、実際にはUA値も絶対的なものではありません。
地域が変われば気象条件も異なるので、同じUA値でも快適さは住む場所によって異なります。
また快適さを表すPMVには、そもそもUA値という考え方が含まれていません。
私たちが住みたいのは「夏は涼しく、冬でも暖かい快適な家」であって、「UA値が◯◯」という家ではないのです。
大切なのは快適で健康的な家づくりであり、UA値などの数値はそれを達成するための目安に過ぎません。
とはいえ、国からの補助金を得るにも資産価値を高めるにも、断熱性能を示す数値は必要であり、それを目指した家づくりを行うべきです。
【断熱性能についての基本的な考え方】
・断熱等級6もしくは断熱等級7の家にする
・HEAT20基準ならG2~G2.5くらい
・建築費だけではなく、トータルコストで考える
ぜひこの考え方をもとに、快適で健康的な家づくりを目指してください。
断熱性能のレベルについて、どんな選択をしたら良いのか?
断熱性能のレベルについての基本的な考え方は共有できたと思いますが、さらに大事なのはそれをどうやって実現したら良いのか、つまりどんな選択をしたら良いのかという点です。
最初に述べたように予算には限りがあるため、高断熱住宅をコスパ良く建てるにはどうしたら良いか、という選択が非常に大切になります。
では、具体的にどんな選択をしたら良いのか?
その点を、これから一緒に考えていきましょう。
まとめ
「高断熱住宅」というのは、単なるブランドではありません。
私たちが快適な環境の中で健康的に生きていくための、絶対的に必要な「手段」なのです。
さらに家の断熱性能が上がれば冷暖房費も下げられますし、その分だけ地球にも優しい家となります。
特にこれから電気料金が上がっていくことを考えると、家の断熱性能は社会的にもよりリアルな話になってくるでしょう。
そのため、コストがある程度かかったとしても、家の断熱性能は上げるべき。具体的な目安としては最低でも断熱等級6、できれば断熱等級7の家づくりを目指してください。
そしてそんな高性能の家づくりをコスパ良く行う方法について、これからさらに考えていきたいと思います。
この記事を監修した人

スタイルオブ東京株式会社
代表取締役 藤木 賀子
宅建士、公認不動産コンサルティングマスター(アンバサダー)
不動産コンサルティング、売買仲介、住宅建築プロデューサーとして2000件以上の相談を受ける。
お客様にとっての『毎日を楽しく暮らすお手伝い』を実現するために、正しい知識を提供すること、お客様と住宅業界・不動産業界のコミュニケーションギャップを無くすことに使命をもって奮闘中。