築浅の中古住宅を高断熱リノベーション

ここまでは主に、どのように新築の高断熱住宅を建てたら良いか?という点をお伝えしてきました。

しかし最近は建築費が高騰し、以前なら3,000万円で建てられた家が4,000万円近くかかるようになっている印象です。

そのため新築を諦め、中古物件を購入してリノベーションするという人も増えてきました。

しかしリノベーションというと多くの人がイメージするのは、間取りを変更したり、キッチンやお風呂を新しくすることではないでしょうか。

もちろんそれも間違いではないですが、これからのリノベーションで必要になるのが「高断熱リノベーション」。つまり、家の内装や設備だけではなく、断熱性という家の性能を上げるためのリノベーションです。

予算的に新築の高断熱住宅を建てるのが難しいなら、中古物件を購入してリノベーションし、高断熱住宅にするという手もあるわけです。

高断熱住宅のメリットや必要性についてはすでに十分に説明していますから、ここでは中古物件を購入して高断熱リノベーションする際の注意点や方法について解説していきたいと思います。

マンションか一戸建てか

中古物件を探す時に頭を悩ませるのは、マンションにするか一戸建てにするかという点でしょう。

色々な考え方があるとは思いますが、購入後に高断熱リノベーションするという観点から、それぞれのメリット・デメリットを考えていきましょう。

中古マンションの高断熱リノベーション

ここ最近の中古マンションの高騰ぶりは、私から見ても信じられないほど。

2006年の東京23区内の中古マンションの平均価格が約2,700万円だったのに対し、2021年には過去最高の3,910万円にまで跳ね上がりました。5割近くも値段が上昇していることになります。

ただしマンションは、もともとの断熱性能が高いことが多い。後で説明する内窓をつけるだけで、十分な断熱性能を持てる物件も多いですね。

そのためトータルのコストでは、マンションに軍配が上がることが多いかもしれません。

また古いマンションの場合でも、壁と床を一旦剥がして施工すれば、断熱性もかなり上げられます。コンクリートは木造に比べて気密性も高いのもメリット。しかしマンションでそこまでコストと手間をかける必要はあるかというと、それも疑問。

さらにマンション価格の高騰がこれからも続くと、そもそも良い物件には中古でも手が出ない、ということになりかねません。

やはりどれだけ良い物件を見つけられるかが重要ですが、マンションの場合はそれがますます難しくなってきているかもしれません。

中古一戸建ての高断熱リノベーション

2024年3月における都内の中古一戸建ての平均価格が3618万円となっていて、中古マンションよりも大分お得感があります。

(参考:https://www.kantei.ne.jp/report/kodatecyuko202403.pdf

そして地方に行くと、さらに中古住宅のお値打ち感は高まります。

全国的に少子化が進み、空き家問題はさらに深刻化しているのはご存知の通り。逆を返せば、お得な中古物件も増えてきているということに他なりません。地方では東京よりもかなり安く、中古の一戸建てを購入できるでしょう。

そのためお値打ちの中古戸建住宅を購入し、なるべくコスパの良い高断熱リノベーションを施すことができれば、マンションよりも安く高断熱住宅を手に入れられる可能性があります。

ただし築年数が古い一戸建て住宅の場合は、断熱だけではなく耐震補強やシロアリなどの補修工事が必要になるケースもあるので、中古マンション以上に物件の見極めが重要になります。

マンションにするか、戸建てのどちらが良いかを第三者が決めるのは非常に難しい。

理想の暮らしのカタチは、人それぞれ違うからです。

そのためここからは、主に中古の一戸建てを購入した場合の高断熱リノベーションについて考えてみたいと思います。マンションでも戸建てでも基本的な考え方は変わらないのですが、戸建ての方が手を付けるべき箇所が多いからです。中古マンションを購入して高断熱リノベーションするという人でも、きっと参考になるでしょう。

高断熱リノベーションするなら築浅物件

中古の一戸建てを購入して高断熱リノベーションする時には、ぜひ築浅の物件を探してください。

なぜなら、築年数の古い物件は高断熱化以外にも耐震補強やユニットバス化、給湯器の交換など、手間もコストもかかる部分が多いからです。

その点ここ5年~10年以内に建てられた住宅なら、しっかりとした耐震性能も備えているでしょうし、お風呂やキッチンの交換も基本的には必要ありません。

つまり間取りやデザイン・設備が自分の好みに合う築浅の中古住宅を見つけられれば、あとは耐震性能だけを上げれば良いというわけ。

というのも実際に私が見た2020年築の一戸建てでも、断熱等級は2しかないという物件も実際にありました。にわかには信じられませんが、建築物省エネ法が改正される前なので、そうした家でも建てられたわけですね。

自分好みの築浅の中古住宅を購入して高断熱リノベーションを施せば、新築よりも安く高断熱住宅を手に入れられるというわけです。

もちろん条件に叶う住宅が見つかることが条件ではありますが、築年数の経った古い一軒家を大掛かりにリノベーションするよりも、築浅の住宅を高断熱リノベーションするのが時間もコストも抑えられるでしょう。

高断熱リノベーションの方法

では、高断熱リノベーションするにはどうしたら良いか?

そのための方法は、新築住宅の断熱性能を上げる手順とほぼ変わりありません。

【高断熱リノベーションの方法】

1.窓の断熱化
2.屋根(天井)の断熱化
3.床の断熱化
4.高気密化

1.窓の断熱化

「窓について考える」でも説明しましたが、窓の断熱化は非常に効果が高く、高断熱リノベーションにおいても真っ先に取り組むべき部分です。

もし購入した家の窓がアルミサッシまたはシングルガラスの場合は、樹脂サッシ+複合ガラスの内窓を取り付けましょう。一部屋あたり20万円ほどで取り付けることができ、さらに内窓の設置には自治体から補助金が出ることもあるので、かなりコスパ良く高断熱リノベーションが行えます。

その上で、南窓に庇がない場合は庇、もしくはアウターシェードを設置。

東西北面の窓が大きい場合は、なるべく小さくできないか考える。それが難しければアウターシェードとハニカム構造のブラインドなどで日差しと熱の移動を遮りましょう。

もし築古の中古住宅で壁にまともな断熱材が入っていない場合、家全体を断熱材でぐるりと包み込む外張り断熱という工法も考えれられます。その場合は窓枠自体も変更できるので断熱化という点では非常に効率が良いのですが、コストが数百万円ほどかかるため、予算との相談となります。

そのためやはり築浅の物件を探すほうが、高断熱リノベーションには有利に働くでしょう。

2.屋根(天井)の断熱化

これも「屋根について考える」で説明したように、屋根の断熱材の厚さが十分でない場合は、現場発泡ウレタンなどの工法を用いて断熱性を高めます。

現場発泡ウレタンは断熱だけではなく気密性も高められ、しかも費用が25万円~ほどとコスパも良いのでおすすめの工法です。

3.床の断熱化

床の断熱化については、「気密について考える」で簡単に説明しました。

床の断熱性能と気密性能が低いままだと、いくら部屋の中を暖めても床下から冷たい空気が引っ張り上げられてしまいます。

そのため床下にも現場発泡ウレタン工法などを用いて、断熱性と気密性を一緒に上げる必要があります。

20年くらい前の工務店が建てる在来工法では風通しを重視していて、床下に断熱材を入れていない家もあります。そうした家の場合、発泡ウレタンを吹き付けると断熱性能と気密性能がかなり向上します。

ただしその場合、床下は人が潜れるくらいの高さがなければなりません。

都心では斜線制限によって建物の高さが限られている場合、基礎の高さも低くされていることが多い。そのため床下の高さが足りない場合は、床を全部剥がして断熱工事を行う必要があります。

築浅の住宅であれば設計図書に詳細な断熱仕様があるはずなのでその辺りも目星がつけやすいやのですが、たとえ図面上はしっかりしていても、断熱や気密は大工さんの腕次第という部分もあるのが難しいところ。

断熱等級6以上を考えるなら、築浅でも壁や床、天井の仕上げを一度剥がしてから施工しなければならない場合がある、ということはぜひ覚えておいてください。

4.高気密化

高断熱化と高気密化はセットで考えなければならないことは、「気密について考える」で説明したとおり。

日本ではこれまで家の気密性能についてはほとんど考えられてこなかったため、築浅の住宅でも気密性能を高めることはマストとなっています。

屋根と床下の気密性能を高めれれば、基本的に家の気密性はかなり高められます。

しかし実際の気密性能(C値)は、測定してみないと分かりません。

そのため高断熱リノベーションを行う際には、必ずC値も測定してどこから空気が漏れているかを確認し、一つずつ確実に隙間を埋めていきましょう。

まずはC値を測定して現状を確認する。その上で必要なら壁を剥がして断熱をやり直すくらいの覚悟で臨むのか、ある程度の数字(たとえば一般的に高気密と言われる2.0以下)で良しとするのかを決断なさってください。それによって予算も大きく変わってくるからです。

高断熱リノベーションに必要なコスト

高断熱リノベーションに必要なコストは、元の家の性能と、リノベーションでどの程度のレベルを目指すかによって異なります。

上でも述べましたが、築浅でも断熱等級が2しかない家も実際にありますので、その場合には壁まで剥がさないといけないかもしれません。

ただしその場合でもZEHレベルの断熱性能を持たせるのは、コスト的にも決して難しいことではありません。

元々の断熱性能がそれなりにある家であれば、断熱等級6または断熱等級7レベルの家にすることも可能です。そしてその場合は、同程度の性能を持つ新築の家を建てるときと比べて、500万~1000万円ほど予算を抑えることも可能でしょう。

いずれにしても中古住宅を購入して高断熱リノベーションするのは予算的な問題ですから、それぞれの工法に関してもなるべくコスパの良い工事をしてくれる業者を選んでください。その点については、「高断熱の家づくりとコストの考え方」も参考になるはずです。

基本的には築浅がおすすめですが、築古でも高断熱リノベーションのための基本的な手順は変わりません。その上でユニットバスにしたり、耐震性を上げれば良いわけです。

特に在来浴室になっている家の場合は、ユニットバスに交換することを強くおすすめします。

築古の住宅は安く購入できることが多いため、高断熱化以外のリノベーションを行ってもトータルコストは築浅の住宅と変わらないか、それよりも安くつくこともあるでしょう。

しかし築年数が経った住宅を高断熱リノベーションする場合にはコストだけではなく、手掛ける業者を探すという困難も待ち構えています。

例えば窓だけとか、屋根と床下の断熱処理とかだけならば専用の業者にお願いすれば良いのですが、家全体をリノベーションしながら高断熱化も一緒に行える業者というのは本当に少ない。

その点でもやはり、築浅の物件を高断熱リノベーションする方がより現実的と言えそうです。

中古住宅の高断熱リノベーションについて、どんなことを考えたら良いのか?

建築費が高騰している中、限られた予算の中で高断熱住宅を手に入れるには、中古住宅を高断熱リノベーションするというのは現実的な一つの方法だと考えています。

中古住宅を高断熱リノベーションする際には、ぜひ次のように考えてください。

・なるべく設計図書の残っている、築浅の中古住宅を探す
・窓・屋根・床下の高断熱化、高気密化に特化したリノベーションを行い、断熱性能6以上の家を目指す

築浅の物件ならば、断熱性能以外の部分で家に大きな問題は無いはずです。そのためやはり、自分好みの中古住宅を見つけられるかどうかが鍵と言えるでしょう。

中古住宅の高断熱リノベーションについて、どんな選択をしたら良いのか?

築浅の中古住宅を購入して高断熱リノベーションする時には、ぜひ次のような選択をしてください。

  • コスパ良くしっかりとした施工をしてくれる業者を選ぶ
  • 業者選びに悩んだら、プロに相談する

実は高断熱リノベーションは、新築の高断熱住宅を建てるよりもずっと難しい。

なぜなら新築住宅はある程度カタチが決まっていて、決められた通りに造っていけば良い。説明書通りにプラモデルを組み立てるのに似ているかもしれません。

しかしリノベーションは一軒一軒全て条件が異なりますから、業者にも確かな腕が求められます。出来上がったプラモデルを改造していくのに近いでしょうか。ただ組み立てるよりも、さらに多くの知識や技術が求められるわけです。

そのためコスパ良くしっかりと高断熱リノベーションを施してくれる業者を探すのは、決して簡単ではありません。

試しにもし見当をつけているリフォーム業者がいたら、次のように尋ねてみてください。

・高断熱リノベーションをしたことがありますか?
・断熱補強をするとしたら、何から始めるべきですか?
・気密測定をしたことはありますか?
・UA値を計算したことがありますか?

おそらく、この全てに満足のいく答えを出せるリフォーム業者はほとんどいないと思われます。

それほど、高断熱リノベーションは難しい。

だからこそ、築浅の中古住宅を探して、なるべくシンプルに高断熱・高気密補強をすることが成功の秘訣というわけです。気密測定をしたことがない業者でも現場発泡ウレタン工法で屋根と床下の断熱・気密補強はできるかもしれませんし、その逆もしかり。

ただやはり業者選びに困ったら、「高断熱の家づくりとコストの考え方」でも述べたように、ぜひプロに相談してほしいのです。

まとめ

快適で健康的な高断熱住宅で暮らすのは、何も新築物件を建てられる人だけの特権ではありません。

なるべく築浅の中古住宅を購入して、高断熱リノベーションを施せば、手の届く金額で高断熱住宅を手に入れられるかもしれません。

しかしそのために必要な手順や工法を理解してコスパの良い工事を依頼するのにも、高断熱リノベーションを引き受けてくれる業者を探すのにも、自分一人では不安でしょう。

また業者によっては設計図書が残っている築浅の物件であっても、断熱等級6以上のリノベーションを希望する場合、外壁を全部剥がして断熱をやり直さないと無理です!と言われることもあるでしょう。それほどのレベルを求められるのであれば、それくらいの工事を行わなければならないというわけです。築古の家であればなおさら、工事も大掛かりにならざるをえません。何社かリフォーム業者と話を重ねれば重ねるほど、一体どうしたら良いのか分からなくなってくるでしょう。

その時にはぜひプロに相談して、適切なアドバイスをいただいてください。

プロのエージェントなら、自分の代わりに業者に適切な質問ができますし、専門的な答えも分かりやすく説明してくれるでしょう。

リノベーションは、新築よりも難しい。

だからこそ、決して自分ひとりで悩むのではなく、プロに相談してほしいのです。

この記事を監修した人

スタイルオブ東京株式会社
代表取締役 藤木 賀子

宅建士、公認不動産コンサルティングマスター(アンバサダー)
不動産コンサルティング、売買仲介、住宅建築プロデューサーとして2000件以上の相談を受ける。
お客様にとっての『毎日を楽しく暮らすお手伝い』を実現するために、正しい知識を提供すること、お客様と住宅業界・不動産業界のコミュニケーションギャップを無くすことに使命をもって奮闘中。

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